ベジタリアン達の言い分や調査報告はその時の俺には特に興味の無いもので、それよりもツグミの成長ぶりに感心したが、ふと空港のニュースを思い出した。惑星にいた八年間で、子供の虐待の報道はまず無かったからだ。
彼は、可能であれば、加害者本人に直接報復することに拘泥し、被害者のまま終わって無意味な禍根を残すなと視聴者に発破を掛けていたが……。人の素質は様々なので、それで子供や動物の虐待が無くなるとまでは言えない気がする。
今回の帰還が決定する前から地球での仕事先の候補を幾つかに絞っており、惑星では最後に日本茶の販売の仕事をしていたので、地球でも同種の職に就けるよう職業紹介所と頻繁に連絡をとっていた。惑星の移住先には政府の造った新施設が多く人口とのバランスが最適なため求人の条件は実に手厚いもので、俺も希望を出せば九割は仕事に就くことができた。
地球での就職に関しても、政府の計らいによって惑星からの帰国者を経営者が優先的に雇用する事になっている。政府に協力した者への一種の保護だ。待遇の良い移住先からの帰国者は予想通り少なく、この約束は守られた。俺も一週間後には働けることになっている。それまでに職場の見学等に行くのも自由だ。
新しい仕事場で取り扱う商品は主に日本茶だが、紅茶の葉も数種類だけ置いている。店の近くに従業員専用の小さなアパートがあるので、値段によっては入居するつもりでいた。長年一人暮らしをしてきたので、今更家族と生活するのは気が引ける。帰国後の慣れない地球歩きに疲れ、その日は死んだように眠った。