終わりの時はすぐに、簡単に来ました。わかっていることでしたが、気づいていないふりをするようにずっとお酒で誤魔化していたのかもしれません。いよいよになってくると、破産か夜逃げか、時には自殺も考えるようになりました。周りのみんなに知られることが怖くて怖くて、夜中に何回も一人でワンワン泣きました。忘れる為にまた飲みました。
本気で泣いているのか一人芝居なのかもわからなくなり、ヘラヘラ笑ったりもしました。脳みそが腫れて膨れて頭蓋骨を内側から圧迫しているのを感じるくらいに、とにかく起きている時間は全てといっていいくらいアルコールを摂取しました。さらには現実か幻覚かわかりませんが、脳みそから揮発性の何かが頭蓋骨をすり抜けて出てくるのを感じるようになりました。
それでも飲んでも飲んでも恐怖は治まらず、毎日のように泣きました。沢山の経営者仲間がいるはずなのに、もう誰にも相談できませんでした。
いよいよある日、これで最後だなと覚悟を決め、弁護士事務所に自己破産の相談に行きました。地元では人の目が怖かったので、ネットで調べた自己破産相談の広告を出している東京のあまり大手ではなさそうな弁護士事務所に行きました。弁護士の対応は結構ドライで、ごく事務的に
「そうですか、わかりました。ではこちらの書類をお渡ししますので……、また本当に依頼されるつもりになったらご連絡下さい」
とサラッと終わりました。今考えれば、私は自己破産するといっているくせに他人に迷惑をかけたくないなど下手なプライドだけはあって、悲劇のヒロイン(いや悲劇のヒーローか)よろしく自分の悩みを聞いてもらいに来ただけ、といった感じであり、私の態度はまだ本気には見えなかったのかもしれません。弁護士は出入り口での送り際に
「私がいってはいけないので独り言ですが、今、自己破産するとなるとかなり面倒なことになります。迷惑かけたくないといっても破産という時点で必ず周囲に大きな迷惑をかけます。いっそ夜逃げでもして身を隠し、勝手に全てが片付いて、ほとぼりが冷めた頃に自己破産されてはどうですか」
と、親切な独り言を言ってくれました。