第一章 応援

「警察署の前で無実の罪で逮捕された哲也君を救う運動をしようと、他の先生達と話しているんです。ご両親に許可をいただきたいと思いまして」

と、その日の夜、組合の藤田先生から電話あった。

警察の前での活動なら、無実をアピールするいい機会になるだろう。許可するどころか、私も参加しよう。話題になってマスコミが取材してくれれば、冤罪をはらす大きなきっかけになるかもしれない、新聞やテレビ、ネットで報道されても構わない。むしろ望むところだ。すでに犯人として実名報道されているのだから。

ひとりではない! 応援してくれる人がいる! 私は体の奥から力が湧いてくるのを感じた。

弁護士さんとの打ち合わせでは接見した時の様子を教えてくれた。元気そうだったと聞いてほっとする。息子からの伝言もあった。成績のデータが入ったUSBが自宅にあるので、教頭あてに書留で送ってほしいそう。こんな時でも仕事のことを考えているのか。

その他にパジャマを持ってきてほしいとも言っている。ちゃんと眠れていればいいのだが。私の方からは、「みんなが応援しているから信念を貫いてほしい」と伝えてもらうようにお願いした。

肌着やスエット上下、靴下などの着替えを差し入れるため、署の留置係に電話を入れた。3時に来るように言われたが、少しでも早く哲也のそばに行きたい気持ちで2時半に着いてしまう。待たされるかと思ったが受け付けてくれた。

留置場は4階だった。インターホンを押すと、扉が開く。留置場は寒くないだろうかとセーターも渡したかったが、洗濯時に乾燥機にかけるから縮むと、返された。書類に日付と私の氏名、住所を書き、身分証明に免許証を見せた。厳重な手続きをしなければ、自分の息子に衣類も渡せない。これが逮捕されているということなのか。

哲也は、今同じフロアにいる。ここから遠くないはずだ。大声で名前を呼んだら聞こえるかもしれない。叫びたい気持ちを必死にこらえて、署をあとにした。

その後息子の家へ向かった。頼まれたUSBを探す。室内は泥棒が入ったように散らかっていた。衣類や書類が床に広がり、足の踏み場もない。警察が家宅捜索に入ったのだ。

息子が毎日使っていた腕時計が机の上にあった。私の腕につける。大丈夫、そばにいる。心強くなった。窓辺には小さな植木鉢が2つ。枯れかかっていたので、持ち帰って水をやった。哲也が帰ってくるまで、私が世話をしよう。

【前回の記事を読む】信じられない…正義感の強い息子が強制わいせつの疑いで逮捕!?