妻は私ががんであることは知っていたが、早期に発見されているので簡単な手術だと思っていた。私は手術の技術が進んでいるので、腫瘍だけ取り除くだけで済んでくれと願っていたので、二人とも唖然として話を聞いていた。医師の話は続いた。
「手術は十月三日を予定しています。二日からの入院になります。二、三週間の入院が必要でしょう。何か質問はありますか」
「今は治療技術が進んでいて、がんだけ取り除く方法もあるように聞いたんですが」
「もう少し早い時期にがんを見つけていればその方法でもできたのですが、リンパ節に転移している可能性があるので、全摘の方がいいと思います。大切なことはがんが転移しないことですから」
「夫は毎年検診を受けてがんがあるかも調べていたのに、なぜもっと前に見つけられなかったのですか」
「一年前の検査でもバリウムを飲んでのレントゲン検査ですね。これでは小さながんは見つけられません。胃カメラなら分かったと思いますが」
自分の胃がなくなるかどうかの差は、バリウムを飲んでのレントゲン検査にするか胃カメラにするかだったのか。胃がなくなるかもしれないということは、胃がんについて調べた時に、可能性としてはあるが、自分の場合は早期発見だからがんだけ取り除く方法でいいはずだと勝手に決め込んでいた。
実は、私ががんの告知を受けた後、テレビでがんに関する放送を偶然二回見た。自分ががんになったから関心が高まっていたので気がついたのか、ちょうど新発見があったから二回放送したかは分からないが、とにかくテレビの放送ではがんに対する医療が画期的に進んでいることを伝えていた。
私はその放送で大いに勇気づけられ、自分は絶対に治ると思っているところだった。だから胃がなくなると聞いた時のショックは大きく、思考がまとまらなくなっていた。
「みなさん、胃がなくなると生きていくのが大変に思われるでしょう。確かに二、三年は大変です。しかし、小腸などが胃の代わりの働きをしてくれるので、普通の生活ができるようになります」
「お酒も飲めるようになりますか」
「ええ。大丈夫ですよ」
何で今お酒の話と妻は思ったようだ。でも私にとっては凄く大切なことだった。