新しい生活
「もしもし……こんにちは」
かかってきた電話の声に聞き覚えがありました。
「お久しぶりです」
「今度また熊本に帰ってくることになりましたよ〜。それでまた部屋を探していただきたいのですが……」
「もちろんです。またお会いできますね〜」
お得意様からの電話でした。彼女は引っ越しのたびに、連絡をしてくれます。そのたびに私は希望条件を詳細に聞いて、一つでも多く希望を取り入れながら探します。
人は生活して何年か経つうちに、家族の形態も変わり、仕事の関係や子どもたちの成長もあり、学校の問題、通勤の問題、買い物や交通の便など、新しい数多くの問題に直面します。だからこそ私は、一つひとつ丁寧にしっかり考えて提案していきます。さらに、これだけは譲れないこだわりの条件も……。それは話を聞いていくうちに、だんだんとわかってきます。
いつしか周知の友のようになって、話題は部屋探しから、別のあらぬほうへと発展していくことがあります。そういうところも面白く、話しながら「もうあそこしかないなあ……」と頭のなかに、条件に合いそうなアパートが浮かんでいます(^ ^♪
「あなたに決めてもらいたい」
そう言って来られると、目じりから熱いものがこぼれてきます。そっと眼鏡を直すしぐさで、わからないようごまかします(笑)。