窓際の棚に置かれたプレーヤーから、音楽が流れ出す。ポップなダンスミュージックだ。卓球台を隅っこに追いやって、ここは時々にわかのクラブになった。油が染み込んで黒褐色になった床のささくれが、露わになる。ピンク色の頰をしたマリィが靴を脱いでしまって、ママに𠮟られている。
耳慣れないメロディでも自然と足がステップを踏んで、皆の目を意識しながらも腕が動いてしまう。それぞれがそれぞれの振りで、楽しげに身体をくねらす。店主も、枯れ木の腕をリズムに合わせている。店主は自分のことを、枯れすすきと言っている。
そのひとときが、一日のどの時間よりも気持ちを和ませてくれる。そんな時間が未来を見せてくれるわけではないが、明日さえ見られない自分からは解放される。バイセクシャルのジェイが、踊ろ、と私の手を取る。あまりに爪が綺麗で、見とれてしまう。 最近ヤンキーの信一、名前は普通に地味だ、は夜間の高校へ行き始めたらしい。
「せん公が、勉強は荷物にならへんて言うたんや。オレ、頭悪いし勉強なんか何の役にも立たへんて言うたんやけど、もうしつこうて。あんなにしつこかったら、女の子、絶対に逃げるで」
伸び始めた黒髪が金髪に混ざって、何とも奇妙な髪色になっている。それでもその顔が、誇らしげに見えてしまう。
先生が笙鈴に手を取られて、踊っている。四十も半ばらしいがスレンダーで、すっぴんなのに肌が艶々と輝いている。彼女の黒髪が先生の頰に触れるたびに、胸に湧くもやもやに向き合えず、私はジェイが絡めてくる指に力を込めた。一年も経てば、それぞれの家庭事情や環境が分かってくる。満たされて裕福に暮らしている人は、誰一人いなかった。それでも皆、陽気で温かい。
自分がふわりふわりと贅沢の中に漂っている暮らしが恥ずかしく、その思いが私を惨めな気持ちにさせた。
「ワシはな。終戦の年に生まれたんや。あんたらの年では戦争いうてもピンとけえへんやろけどな」
いきなり、背中から声がかかった。振り返ると、年配の男性が立っていた。伸びかけた固そうな白髪が、枯れたサボテンのようになっている。
「なあ、弦やん。今はやめとき」
店主が笑顔で近付いてくる。
「いっぺん、ゆっくりと話がしたいなて思うてん。せやけど、今はあかんか」
「ええんやけどな。この雰囲気でするのは、ちょっとな」
さよか。弦さんは、しょげたように唇を尖らせた。そうすると、飛び出した頰骨がいっそう目立つ。弦さんはポケットから煙草を取り出すと、外へ出ていった。