四
「朱里ちゃん。めちゃカッコええ。宝塚の男役みたいや」
もう七十歳近い富美さんが、私の頭を撫で回す。冨美さんは小学生くらいの体格だが、卓球にかけては誰をも唸らせるくらいの腕前を持っている。髪を切った私を見て、先生は絶句した。
月に八回、先生と待ち合わせて荒物屋の二階に行く。曜日は決まっていて、店が定休日前の水曜と塾が休みの日曜。携帯がないので、先生と連絡を取る方法がないからだ。携帯を持たない不便さを初めて知った。
出かける口実なんて必要なかった。父親も母親も超多忙で、落ち零れた娘の動向に構っている暇なんてないのだ。自分たちに必要なときに私がそこに居れば、それでことは大儀なく済まされた。卓球場に行けば皆が歓迎してくれ、ヘタはヘタなりにどうにか格好が付くようになった。今の私にとって、たった一つの楽しみだ。
「あかり。じょうず、なったよ。ラケット、当たってる」
誉められてるのか笑われてるのか、フィリッピン人のジャニスが手を叩く。笑うと目尻に細かい皺が寄るが、ゴールドの細いチェーンが小麦色の肌に似合っている。
「あかり。ボク、がっこ、行くよ。ミクと、行くよ」
アフロ坊やのトミィのまん丸い目が、電球の明かりにきらきらと光っている。まだ五歳くらいかと思っていたが、就学年齢になっているようだ。
「がっこ、楽しいよ。トミィだったら、お友達いっぱいできるよ」
うん。うん。真似して首を振る。うん、うん。
ここに来て二カ月も立たない間に、皆が私をアカリと呼ぶようになった。そのウエルカムに戸惑いながらも、約束の日が来ると浮き浮きとスキップしたい気分になる。