「透さん、貴方のそんな考えは何も生み出さないわ。事故だったのよ。あの事故は誰が運転していても、貴方ではなく誰が運転していても避けられなかったの。

横から急に飛び出してきた人を、一体誰が避けられるでしょう。

だって車というものは、どんなに急いでブレーキをかけたとしても、すぐには停まれないものなのよ。だから警察もそれを認めて、罰金刑で済んでいるの。

事故なのよ。勿論、亡くなった方や、遺族の方には申し訳ないし、罰金が済んだから、示談が成立したから、といって、それで済んだと思ってはいけない、と思うわ。

例え、老人であっても、どういう人であっても、その人自身にとって、その人を想う人達にとって掛替えのない命であって、失っても良い命というものはないと思う。けれど、亡くなった方は帰ってこない。

亡くなった命を、どんなに嘆いても、どうすることも出来ない。医者になろうとする貴方が、それを知っているのはいいことよ。

でも、貴方がお医者さんになることで、助けられる命が必ずあるわ。貴方、以前に話していたでしょ。『医者になるのは唯、親の希望を叶える為だけでなく、病で苦しむ人を救ってあげたいからだ』と。

救えなかった命を、何時かきっと、助けてあげられるわ。だから、今は何も考えずに、学ばなければならないのよ。

私のことは心配いらない。自分の意志で買って出たことよ。覚悟は出来ていたの、以前から。貴方の御両親に頼まれたからではないのよ。

もし、同じ場面に戻ることが出来たとしても、私は再び同じ選択をするわ。私は唯、貴方を守りたかった。もっと愛したかった。重荷を一緒に背負いたかった。

透さん、苦しまないで、傷付かないで、悲しまないで。貴方は私の愛しい、可愛いい、この世の何よりも大切な人よ。これからも私はずっと、貴方を守ってみせる。貴方の為にではないのよ、私がそうしたいのよ」

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