「教授のカバンの中を見せてください」
一人の刑事が言った。
「どうぞ。好きなだけ調べてください」
梅澤は、スーツケースを開け、差し出した。
2時間ほどが経過した。三井刑事は、各々の刑事と目で合図をとり、「教授、写真をとりますから、協力をお願いします」と梅澤に言った。
「教授、こちらに来てください」
一人の刑事が言った。
梅澤は、腰を庇いながらゆっくり立ち上がって呼ばれた場所に移動した。
「このファイルを指で指し示してください」
言われた通りに、梅澤がファイルを指差すと、カメラを構えた刑事が写真をとった。同じ動作をファイルの数だけ、十回ほど繰り返した。
机の上には、梅澤の携帯電話、システム手帳、財布、コンピューターのUSBメモリー、机の中の書類、名刺類などが並べられていた。その一つ一つを指差して写真に納める動作が繰り返された。
その頃になると、梅澤も落ち着きを取り戻していた。
「一回一回、顔まで写真をとらなくてもいいんじゃないですか?そんなに有名じゃないですし。手先だけでもいいんじゃないですか?」
と写真をとる刑事に冗談を言った。
三井の苦笑いが梅澤の目に入った。
刑事たちは、持ってきたダンボール箱に押収したファイル、携帯電話、手帳などを入れ始めた。三井刑事は、一つ一つを捜査押収リストと書かれた用紙に書き込んで行った。
それが終わると、書類と押収品を対比しながら梅澤に署名を求めた。やっと、これで終わったと思った途端、三井が言った。
「教授のアパートを見せてください」
「えっ、今からですか?」と梅澤は聞いた。
「部屋まで案内してください。」
三井は平然と言った。
「……」
梅澤は、あらがっても仕方が無いと思い、身の回り品をブレザーのポケットにいれて立ち上がった。
周りを2人の刑事に取り囲まれるようにして、朝、腰痛に堪えて必死の思いで出勤してきた道程を戻っていった。残りの刑事は自分たちの車に分乗してアパートに向かった。
「すみません。本当に腰が痛くてゆっくりしか歩けないんです。決して、ふてくされている訳でも、抵抗しているわけでもないんです」
梅澤が三井に話しかけた。
「解ってますよ。ゆっくりで結構です」
容疑者の権利を尊重するためであったとしても、梅澤には有り難かった。朝は30分近くかかった道程であるが、15分ほどで宿舎に着いた。