私は西ノ宮沙優、三十八歳、独身。
今まで働いていた会社が倒産し、次の就職先が中々見つからず途方にくれていた。この日は家賃未納でアパートを追い出され、追い打ちをかけるように雨が降ってきた。
前日から体調不良で、とりあえず隣の高級マンションの入り口付近で雨宿りをした。そのうち睡魔に襲われすっかり寝てしまった。
気がつくと、おでこをタオルで冷やされて、熱は下がったみたいで、身体の怠さは和らいでいた。毛布で身体がくるまれていたおかげで冷えた身体は温かくなっていた。
見たことがない天井、すぐに高級な部屋だと分かった。ちょっと身体を起こし、周りを見渡すと、キングサイズはあるベッドに寝ていた。
ふと隣を見ると、男性が寝ている。「きゃああ」と叫び声を上げてしまった。
「何、どうした」
男性は私を見て「急に叫び声上げたらビックリするだろ、熱、下がったのか」と言い、おでこに手をあてた。
「あのっ」
「マンションの前でぶっ倒れてたから、俺の部屋に運んだ」
段々と記憶が蘇ってきた。私はアパートを追い出されて、マンションの入り口付近で雨宿りして、寝ちゃったんだっけ。
「大丈夫か」
「はい」
私は毛布をめくり自分がスエットで寝ていることに気づいた。
「服も下着も濡れていたから、全部脱がせて、俺のスエットに着替えさせたんだ」
「えっ、まさか」
私は彼を睨んだ。
「はあ、何もしてねえよ、俺は女に困ってねえ」
「良かった」
「良かったじゃねえよ、まずお礼だろ」
「すみません、ありがとうございました」
ふかふかのベッド、高級そうな家具、隣のマンションの人ってことはどこかの会社の役員クラスかな。