無理矢理にラケットを持たされた。
卓球自体はテレビを見て知っているが、私はラケットどころかしゃもじすら持ったことがない。
「神崎さんは、何か得意なスポーツってあるんかな」
先生に聞かれて返事に困る。運動すると日に焼ける。手足が太くなる。筋肉質になる。そんなこんなの理由で、母親がスポーツをさせなかった。たとえ単位を落とそうがそれで留年にはならないし、娘の将来に何ら影響はない。常に母親は、自分の跡を継ぐ者としての考えしか頭になかったのだろう。
私自身も自分は運動には向いていないって思っていたから、体育の授業は適当にスルーしていた。それで、取り立てて苦情を言う教師もいなかった。所詮は、お嬢様学校なのだ。
特技は何。もう一度聞かれて、咄嗟に答えた。跳び箱。でも、跳んだことはない。鉄棒にぶら下がった記憶も、ボールを蹴り飛ばした覚えもない。
「ほお、跳び箱が跳べるんやったら、卓球なんてちょろいもんやで。儂は跳び箱で、手首を捻挫したわ」
え、そうなん。一瞬やる気になったが、いやいや、できるはずがない。
風が出てきたのか、木枠の窓ガラスがぎこぎこと音を立てている。見たことのない小さなストーブが二つ。ドーム型の金網が付いている。冬になって火を点けても、暖かくなるようには思えなかった。
「まあ、今日のとこはしっかり見て帰り。今度来るまでにラケット用意しとくさかい。ここは、ただやよって気楽に来たらええ」
ここの店主なのか、浜辺に打ち上げられた古木のような老人がVサインをした。
先生は首にタオルを巻いた六十歳くらいのおばさんとバイセクシャルに勝ち、まんまヤンキーに見えるニキビ面の男子に負けた。
「とうとう先公、負かしたで。腕力は自信あったけど、試合で勝ったんは初めてや」
皆が微妙な感じで、手を叩く。