すっと体を屈ませ、力を溜める。次の瞬間、轟音が響いた。踏み込みの加重を加えた、見事な正拳。それがガルフの腹に突き刺さり、壁まで吹き飛ばしていたのだ。
「なあ!?」
「二人共……完膚無きまでに、叩きのめす」
冷徹な口調で、少年が宣告する。またしても尋常でない様を見せつけられ、硬直するデルス。少年は容赦なくその隙を突き、回し蹴りを放つ。見事に決まり、デルスも壁に叩きつけられた。
激しい痛みに身動きが取れず、二人は呻いている。少年は疲れをほぐすように手を振り、「これで満足か」と言った。
「満足したならさっさと消えろ。これ以上、依頼人を困らせるな」
二人に近づき、目障りとばかりに野次馬の外へと投げ飛ばしていく。痛みと屈辱に顔を赤く染め、彼らはよろよろと逃げ去っていった。
彼らの姿が見えなくなった途端、喝采が湧く。余程彼らは嫌われていたらしい。「やるじゃないか兄さん!」だの、「すっごいかっこよかった! ねぇ、あたしの店によってかない!?」だのという声で通りが満たされた。
そんな中リリアは立ち尽くしていたが、きっと顔を上げるとポケットから小さい紙束を取り出し、凄い勢いでペンを走らせていく。そして書き終えたかと思えば、つかつかと「君を雇って正解だった!」と喜んでいる少年の依頼主に近づき、それを突きつけた。
「へ!? な、なんだいこれ!?」
「あげる。それで満足できないなら後で言って。もう少しなら出せるから」
「何を言って……ってこれ、小切手? というか、金額……!?」
慰謝料分と補足が書かれたそれには、とんでもない額の金額が書かれていた。驚きと困惑に依頼主が「どどど、どういうことだい!?」とどもりながら問い詰めてくる。
「君私に悪いことなんてしてないだろう!? わけが分からないぞ!?」
「いいのよ、これから悪いことするんだから。ねえ、貴方」
「……俺のことか?」
「ええ。まどろっこしいのは好きじゃないから、単刀直入に言うわ」
ばっさりと依頼主との話を断ち切り、少年に指を突きつける。その頬は高揚で赤く染まり、瞳は歓喜の色で染め上げられていた。
「――私の下に来なさい! その力、思う存分活用してあげるから!!」
リリアは、高らかに言い放つのだった。