孔子の一行が、旅を終えて、故郷である魯の国に到着した時、その知らせを聞いた魯の国の王様は、すぐに孔子に会いたいと申され、使いを出しました。孔子の教えはますます広く伝つたわっており、王様は孔子が帰国するのを首を長くして待っていたのでした。
孔子は、故郷に到着してすぐに、地元の人々の様子をつぶさに見てまわりました。そして気がついたことがありました。人々は以前と比べて警戒心が強くなっており、見知らぬ人とは、かかわらないような他人行儀な雰囲気を感じたのでした。どうやら、泥棒などの犯罪も多くなっているようでした。
孔子は王様からの招待を快く受けて、王様に会いに行きました。王様は、孔子に会うと、ぜひ聞きたいことがあると申され、
「我が国の人々は、なかなか言うことを聞いてくれないし、法律も守ってくれない。泥棒などの犯罪者も増えている。いったいどうしたら人々は、規律正しくなり、法律を守ってくれるようになるのだろうか」
と孔子に聞いてみました。
すると孔子は答えました。
「王様のもとには、たくさんの家来たちがいます。その者たちが、人々の模範となり、人々の生活を律し、人々を正しい方向へと導くのです。したがって、王様の家来たちは、人々の模範にならなければなりません。思いやりの仁の心を持った、人として正しいことが実践できる正義感のある家来たちを引き立てて、その者たちに国を治めさせれば、人々は、尊敬し、つき従うでしょう。逆に、思いやりのない、悪い心を持った家来を引き立ててしまうと、人々は、その家来の言うことは聞かず、国そのものも尊敬しなくなってしまうのです」
王様は、孔子の言わんとすることがよくわかり、その後は、家来たちを注意深く観察し、家来の中でも、特に思いやりの心を持った者たちを引き立てて、重要な地位においたところ、犯罪は徐々に減り、人々は安心して暮らせるようになったのでした。