少女が襲われそうになった原因となったのは、どうやら祭りが賑わっていたかららしい。太鼓の音や賑やかな人々の声が妖魔を興奮させたらしく、たまたま川の畔にいた少女が視界に入ったので襲おうとしたのだ。
二人は村人たちによって村に招かれていた。祭りは、先程の騒ぎのせいで太鼓は控えめだが、それでも人々の表情からは楽しさが感じられる。すっかり日の沈んだ村の通りには、様々な露店が建ち並び、通りの脇の灯籠には灯がともる。そこを子供たちが駆けていき、それを大人たちが少し困った様子を見せながらも嬉しそうにして付いて行く。
男はそんな村人たちの様子を見てあることに気づいた。この戦乱の世の中でも、この村のように村全体が幸せそうな雰囲気に包まれた村は珍しい。それが気になり、村人に事情を聞くと、そこには意外な理由があった。
この村には一人の魔術師がいるのだという。魔術師とは不思議な力を持った者たちのことをいう。魔術師はこの世に数が少なく、百万の内の一人という確率で存在するとされている高貴な存在で、多くの場合、魔術師は貴重な人材として扱われることが多い。魔術師は魔術を使い、人々の生活を豊かにしたり、その地の守り手として、外敵である妖魔やその他の災いなどを退け、ときには精霊と対話をしたりするとも言われている。
ほとんどの魔術師は、王族や上流階級、豪族などに雇われることが多く、その存在がその地に大きな影響力を及ぼすのだ。だが、この村に住む女の魔術師は、他の魔術師たちとは違うようだ。
魔術師はこの村を愛し、この村の人々のために魔術師としての自らの役目を果たしている。普通の村は、妖魔が住み着く付近では集落を作らない。だが、この村には、その魔術師がいるお陰で、妖魔が住み着く森の付近にあっても妖魔に襲われることはないのだという。