(2)いまだ彼女らが得ていないもの
いまだ彼女らが得ていないもの、それは何であろうか。
ストレスから身を遠ざけることは、どのようなストレスに対しても有効な方法だ。しかし、それはストレスを減らすことにつながるが、ストレスの源をなくすことを意味するのではない。毒親が目の前にいない、ということは大いなる救いだが、それだけで心の中に棲みついた毒親が、消え去るわけではないのだ。
逆に、ほっとしてしまうために、自分の心の中の毒親の支配に気づかなくなってしまう恐れがある。つまり、物理的な距離ができたからといって、すぐに心理的にも毒親から離れた、とは言い難いのである。
物理的な距離と心理的な距離が異なるということは、何も毒親との関係に限ったことではない。われわれがホームシックを感じるのも、家族や故郷と物理的に離れても、心理的につながっているからである。感じる感情の中身は違うが、毒親との関係でもホームシックでも、物理的に距離ができても家族などの心象は、心の中についてきているのだ。
事例2の女性のように、毒親と週に1回しか会わなくなったとしても、会わないでいるときに母親のことを考えて苛まれる苦しさは、時には毎日一緒に暮らしているとき以上にストレスフルな体験となってしまう。物理的に距離を取ったように、心理的にも距離を取るということ。それが彼女らがいまだ得ていないものである。心理的な距離が取れない限り、毒親は常に自分とともにいることになる。
一方、心理的な距離がある程度取れるようになると、物理的な距離を失うようなことがあっても、以前に比べればずっとしのぎやすくなることは確かだ。心の中に巣食う毒親をいかに追い出していくか。物理的な距離を取ったら、すぐにこのことに取り組まねばならない。