しかし一応の確認はしておこうと、野次馬の中から声をかけやすそうな人を探す。すると、酷く慌てた様子で三人を見ている禿頭の中年を見つけた。リリアは彼がこの件の原因と直感し、どうしたのかと声をかけた。余程困っていたのか、部外者であるはずのリリアにも事情を説明してくれる。

「護衛の傭兵を募集していたところに、あの二人が無理やり自分達をねじ込んできて……あいつら、腕は立つが素行が悪いという噂だったから、まずは保留ということにしたんだ。その隙に、ちゃんとしたのを探してたんだが……」

「……ふーん、それが彼だったってことね。で、それを聞いた二人が因縁付けてきた、と」

「どうもそうらしい。ああ、何てことだ……これじゃ彼に申し訳が立たない……」中年が頭を抱える。人の良さそうな顔をしていたが、実際そうらしい。

体格差を見るに、確かに心配になるのも無理はない、が……(何か、気になるのよね……)気付けばリリアは怒りを収め、彼らの喧嘩を見守るようになっていた。刃傷沙汰になれば魔法を使ってでもこの場を収めるつもりではある。

だが、大の男二人から言いがかりを付けられていながら、少年はあくまで冷静だった。若さに似合わない精悍さがその顔にはあり、眼光の鋭さは関係無いはずのリリアにすら緊張を抱かせる。

もしかしたら――そんな期待を抱くリリア。そしてその期待通り、いや、それ以上の展開を少年は見せた。

「くそ、埒があかねえ!……こうなったら、仕方ねえよなぁ!」動じない彼に痺れを切らしたのか、ついに二人の内一人がずいと前に出て、腕を回す。その顔には嗜虐の色が濃く出ていた。

もう一人もそれを止めるでもなく、むしろ、「道理が分からねえ奴に遠慮するこたねえだろ。やっちまえガルフ!」と煽っている。

「おお、任せろデルス!口で言っても分からねぇ馬鹿はさっさとのしとくに限る。……恨むなよ、俺らの仕事に割り込んできた、テメエが悪いんだ!」言葉と共にぶんという音が鳴り、野次馬が息を飲んで――気付けば傭兵、ガルフは、宙を舞っていた。

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