二頭と二人はゆっくりと森の中を進んでいく。先頭を進む馬に跨がる男は、道に迷うそぶりをまるで感じさせない。
この森に精通していない限り、この森を通過しようとする者などいない。それとは対照的に、後ろの馬に跨がる少年は脅えきった様子だ。
「アニキ、俺もうこんな森嫌だよ」
少年が先を進む男に言う。
「心配するな。この辺りに妖魔などいない。だから襲われるようなこともない」
「何でそんなことわかるんだよ」
男の言葉に少年は不安で脅えきった顔を青くする。
日が西の空に落ちかけている。妖魔は、日中を自分の住処に籠もって過ごし、夜に活発に行動する夜行性。
そのため、暗いうちに森の中を移動するのは危険が伴う。人は二日前にこの森の東から入った。
この森を通らず、迂回するとなると二ヶ月ほどの遠回りをすることになる。だが、森を突っ切れば四日と半日ほどで目的の場所にたどり着くことができるのだ。
故に、危険だと言われているこの森を通過しようとしている。落ち着いた様子の男に比べ、少年の顔色は青ざめている。
この二日間、少年は森への恐怖からかすっかり疲れ切っていた。恐怖のせいで夜は眠れずじまい。昼間は周りを警戒しながら森の中を進んでいく。
この繰り返しを続けていることで、気が全く休まらず、また身体を休ませる暇もないのだ。
「もうすぐでこの森を出る。安心しろ」
「わかってるけどさ……」
少年がそう言ったとき、右の方角から何かが勢い良く過ぎ去るような音がした。
「なな、何だったんだ今のは」
突然の出来事に、少年は驚きのあまり馬から落ちそうになるのを堪え、何とか体勢を立て直す。
「アニキ、今のって」
少年は聞いてはいけない音を聞いてしまった、という表情で尋ねる。その声は恐怖で震えていた。