【前回の記事を読む】ふるさとの町に異変!「解体工事ばかりで新しい建物がない」
第一章 第一発見者
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最初は、大した問題ではないという気がしていた。
これだけ建物がうじゃうじゃあるのだから、多少壊したところで高が知れているし、新しい建物だって、どこかに建っているに決まっている。そもそも俺に直接被害が及ぶ問題でもないから、放っておいてもよかったわけだ。
それでもおかしいにはおかしいから、営業途中いっそう気にして街を眺めてみると、家も、店舗も、工場も、やはり新たに建てられているところが全然見掛けられない。目につくのは、解体される建物ばかりである。
多分偶然だと考えた。たまたま自分が通っている道沿いに新築現場がないだけで、よそでは建っているに決まっている。俺は敢えて営業中、違う道を通ることにした。
それでもやはり、街中でも郊外でも、建築中の建物はなかった。時々あるのは、解体中の建物ばかりだった。
偶然見掛けないだけ、とはどうしても思えなくなる。いったいいつから、こうなってしまったのだろう?
解体中の建物は、足場が組まれ防護ネットで覆われている物件も多いため、一目では建てているのか壊しているのか、分からないことがある。それでこれまで見過ごしていたのだろう。
ではなぜ俺の街には、家も、店舗も、工場も、新しく建てられていないのか。そんなことがありえるのだろうか? それともこれは、たまたま一時解体工事ばかりが重なっているだけで、これからいたるところで様々な建設が開始されていく、そういうことなのか?
そう、それが一番現実的なありようというものだ。敢えてそう考えようとするものの、目に映るのは、壊されていく家、アパート、店舗、町工場。壊されていくだけの、街。
まるでジュラシックパークのように、鉄の顎をもつ恐竜のごとき重機が、我が街で猛威を奮っていた。
これは、もしかしたら大した問題かもしれない。次第に俺の意識はそう変化していった。このまま解体ばかりで新築工事が行われなかったら、いずれどうなる?
都市消滅。まさか、過疎の村でもあるまいし。普通に考えればそんなことはありえないし、不安になるだけ無駄だから、俺は敢えて街を見ないように、そ知らぬふりで車を走らせるようになった。写真も撮るまいと決めた。
けれども否が応でも目に入ってくる、解体される建物が。そして目にはどうしても入ってこない、建設中の建物が。
このことに気づいているのは、果たして俺だけなのか? 他のみんなは気づいていないのだろうか?
いてもたってもいられなくなり、それとなく俺は、同僚や家族に訊ねてみた。
「近頃さあ、なんかこの街、おかしくね?」
この問いには決まって、どこが?という逆質問が返ってくる。
勇気を出して、「なんか解体工事ばっかで、新しい建物が全然建てられていない気がするんだけど……」
そう答えると、そんなことないだろ、気のせいだよ、という返事ばかりが返ってくる。
コイツちょっとおかしい? みたいな怪訝な表情のオマケつきで。みんな気づいていないし、興味もない、それだけが分かった。
なぜこんなことになっているのだろう?
無視しようとしても、この疑問が付きまとう。秘密裏に、得体の知れない計画が、松平市で進行している気がしてならない。俺の視界に幻覚が浮かんできた。
何者かの巨大な手が、草むしりのように、ポイポイと無造作に、街から建物を抜き取っていく。やがて虫食いだらけとなり、みすぼらしく衰退していく我が故郷。いつか全ての建物がむしり取られ、解体され、広大な更地と化し地上から消滅する松平市。
かつて松平市と呼ばれていた、日本列島に現れた巨大な目。