【前回の記事を読む】「近頃この街おかしくね?」気づかず、興味もない住人たちは…
第一章 第一発見者
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俺はやはり得意げに、「実は、なんかおかしいって思ってたんですよ。ほら、自分は営業だから、あちこち回ってるじゃないですか? そしたらおかしなことに気づいたんです。最近うちの街、解体工事ばっかで、ちっとも新しい建物が建っていないんですよ。ずっと、なんでだろう?って考えてたんです。そしたら友城さんのところも、解体工事ばっかりだっていうから、やっぱそうなんだあ、って」
そして俺は、一番訊いてみたいことに突入していく。
「でも、なんでそうなってるんですか? 新しく建てちゃいけない理由でもあるんですかねえ?」
「そんなこたあねえよ」
ここで割って入ってきたのが、デスクワークをしていた友城社長だった。老眼鏡を頭頂部禿げの頭にずらし、小さいが鋭い目でこちらを睨み付ける。いかにも地元の建設屋の社長という、ワンマンな感じ。実は奥さんではなく、社長の意見が知りたくて、わざと大袈裟に奥さんと会話しているところもあった。俺の思う壺だ。
「まあったく、お前、余計なこと言ってんじゃないよ。まるでうちが解体屋になっちまったみてえじゃねえか」
友城社長がぼやくと、奥さんは口をへの字に曲げ、薬箱を持って自分の席に戻ってしまった。
「作っちゃならねえ法律なんかありはしねえよ」
友城社長はデスクの向こうから、俺に対しちょっと怒ったように言葉を投げつけてくる。まるで内心の動揺を、強い口調でごまかしているかのように。
「今はたまたまそういう時期なんだ。もうちょっとしたら新しいの建て始めるから、心配すんな」
「てことは、松平市全部の建設屋さんが、そうなんですか? 全然新しいの建ってないんですよ? 壊すばかりで、建てる仕事が今全然ないって、そんなことってありえるかなあ?」
「よその会社のことは知らないよ」
なぜだか友城社長は伏目がちだ。
「まあ、うちはそろそろ建てるつもりだから、心配すんな」
まるで、余計なことに首を突っ込んでくるんじゃない、忘れろ、とでも言うように、友城社長はそれ以上何も語らず、自分の仕事に戻ってしまった。
謎が解けたというより、深まったというのが正直なところだった。単に奥さんに会社の内情を暴露され、友城社長は怒っていただけなのかもしれないが、何か公にできない事情を知っているようでもある。他の建設屋はなぜ騒ぎ立てないのだろう? 何も建てないでいたら潰れてしまうはずだ。とりあえず解体の需要があるから、なんとかしのいでいるのだろうか。
我々一市民には決して開示されることのない巨大な計画が、この街で秘密裏に進行している、そんな気がしてならなかった。