【前回の記事を読む】「親離れするまで母親は働いてはいけないの」と義母に言われ…
本心
「言ってくれよ。どうしたんだよ。何かあったのか? 僕が何か悪いことをした?」
「もう嫌なのよ」
「嫌って、何が? 僕に抱かれたくないということ?」
「嫌よ」
「だから、向こうの部屋で寝てこいよ」
「嫌っ」
自分でも訳がわからなかった。あれも嫌、これも嫌という感情がどっと押し寄せてきた。だんだん博史の声が怒りを含み始める。
「言わなきゃわからないだろ。泣いてたって解決にならないだろ、言ってみろよ」
「わからないもの、自分にも」
博史の口から、大きなため息がもれた。
「泣く女は嫌いだ」
その言葉を聞いた途端に、今度は機関銃みたいに、口から言葉が飛び出ていった。
「泣かせてよ、ちゃんと泣かせてよ。私は今、泣きたいの。あなたのそばで泣きたいの。今までずっと、どんなときも、泣いちゃいけない、とがんばってきたんだよ。泣いてたまるかと思って、泣かずに我慢したことも何度もあったんだよ。やっと、あなたと会えて、泣いてもいい人と出会えたと思ってるんだから。泣かせてよ。ほかの人の前では泣けないんだから」
ぎょっと私の顔に向き合う夫を感じた。次の瞬間、博史が私を胸に抱きしめてくれた。
「悪かった。僕が悪かった。泣いてくれ。泣いていいから」
彼の胸で、思いっきり泣いた。ようやく落ち着いて、やっと自分の気持ちを静かに話せるようになった。
「ごめんなさい。自分でもよくわからないの。ただ、悲しくて。なんだかあなたがちっともわかってくれてない気がして」
「うん。僕はわかってなかった。本当にごめん」
「あなたが悪いんじゃない。ちゃんと言えなかった私が悪い」
彼に近づいて、腕を取り、腕枕してもらった。