●大切にしてきた三つのキーワード
開園20周年記念誌発行の際、相談に乗っていただいた人から、「わかばの保育を特徴づけるキーワードは、『安心』『信頼』『感動』ですね」との指摘がありました。その人は、毎年卒園児一人ひとりに手渡す先生たち手づくりの記念アルバムや卒園記念文集、「父母の会だより」に寄稿した園長の文章、園長との雑談から、そのキーワードを思いつかれたとのことでした。
これを聞いて、まさに“我が意を得たり”との思いを強くしました。それまで、この三つのキーワードをまとめた形で語ったり書いたりしたことはありませんでしたが、開園当初から、子どもたちを健全に発達・成長させるために大切なこととして意識してきたからでした。
「安心」~本当に子どもたちに必要な「安心」とは
保育園では、「安心」ということばがよく聞かれます。
保護者の方からは「安心して働ける」ということばをよく聞きますし、園の側からは「安心して働いてもらう」「安心して任せてもらう」というようないい方がよくされます。
これらが意味することは、保育園の担っている社会的機能としてごく基本的なものです。保護者に安心して働いてもらえるように、「事故がなく」「健康面・栄養面において一定の配慮がなされる」とともに、「ともだちや担任の先生との関係がよい状態である」ように園を運営していかなければならないことはいうまでもありません。しかし、ここでの「安心」とは、大人の側からのもののように思えます。
わかばの保育における「安心」は、もう一歩踏み込んで、一人ひとりの子どもに身を寄せ、子どもが一人の人間としてよりよく生きて順調に成長し発達するために、「安心して過ごせる」ことが何より大切だと考えているのです。
そのためには、子どもたちが毎日生活する場としての園の保育室だけではなく、園全体がどのような雰囲気であるかが問題なのです。
保育園を始める前の約10年間、大阪市中央児童相談所で児童福祉司として児童相談の仕事に従事しましたが、そのとき、中学校や小学校、公立保育所などをよく訪問しました。実際に学校や保育所の場に身を置いてみてよく感じたのは、全体的にまとまりがなくバラバラで、ときにはとげとげしささえ感じる冷たい雰囲気が漂っていることでした。大きくて人が多いこともあるかもしれませんが、「これでは子どもたちは落ち着けないし、のびのびできないだろう」と感じたものです。
また自分自身のこれまでの人生体験や、「人間とは何か」「自分はこの世でどのように生きたらよいのか」を考えるために宗教や哲学、心理学などの分野で得たものからも、人間として、よく生き、健全な自己実現を現実のものにするには「安心」は大切なことであることを知りました。
さて、では現実の園において、子どもたちが安心してすごせるようにするにはどうしたらよいのでしょうか。