【前回の記事を読む】少女の初恋物語「この人と、ずーっといっしょにいたいなー」
十、みどりの離婚
私の元夫・順司は、仙台で銀行をやめ、コンビニを経営することにした。夫婦二人で一ヶ月間の店長研修を受け、試験に合格し、仙台でコンビニを開店する。コンビニ経営は順調だった。順司は家事をいっさい手伝わない人だったが、子供たちを可愛がってくれた。
夕食の後には、よく議論をするのが好きな人だったが、いつのころからか、私が少しでも反論をすると、すぐに言葉尻をとらえて、あげ足を取ってくるようになった。また、順司のことで心の中で嫌だなあと思っていたのは、人の悪口を言って、その人の価値を下げ、自分の価値を上げようとすることだった。
家事や育児で疲れているので、その議論を早く終わらせたいと思い、いつしか私は、反論することをやめていた。私はつねづね結婚したら、その人とは一生添い遂げるものだと、信じていたので、死ぬ時には夫に、「ありがとう」と言ってから死にたいと思っていた。
順司は元々理屈っぽかったのだが、それは年とともに増していき、コンビニを始めたころには、「俺が黒と言ったら、白くても黒と思え。他人の家のことは知らない」と言うようになり、「何かやってほしいことがあったら、逆のことを言え」とまで言うようになった。
お酒は飲まない人だったが、夜中の二時三時まで友達の家で麻雀をしていて、私の睡眠時間も四時間ぐらいになっていった。彼女と隠れてつき合っていた時は、子供たちの運動会を見に行こうとさそっても、「興味がない」と言うようになり、違和感を感じ始めていた矢先、突然、離婚を切り出された。『もう、この人の気持ちは、ここに在らずだ』と、諦めの悲しい気持ちになった。
しかし、子供たちのことを想うと、今までずっと幸福な家庭で育ってきたので、心が痛み、なんとか離婚しないでいられないかと、夫に泣いてたのんだが、夫の心は向こうに行っていて、聞き入れてもらえなかった。そして順司は、「君には、僕よりずっと、ふさわしい人がいるはずだ」と言った。
ただ当時、長女が中三で高校受験を控えていたので、受験が終わるまでは、子供たちには一切内緒にしていてほしいと思い、「十ヶ月間は、離婚届けにはハンコは押さない」と言った。その間、夫は彼女の家と我が家を行ったり来たりした。今までに経験したことのない悲しみが、ひと時も心を離れない十ヶ月だった。