その時、建物の外から大きな唸る声が聞こえた。

「龍王と赤龍殿が来られた様じゃ。さ、龍珠を余に返してくれ」

鳳炎昴龍が手を差し出すと、羅技は首を横に振った。そこへ龍王と赤龍がやって来た。

「兄上様、一体何としたことですか」

「すまぬ。羅技姫を御返し致す。無礼の段、余はいか様にも償うつもりじゃ」

鳳炎昴龍が詫びると、

「羅技、館へ戻ろう!」

赤龍が羅技の手を取った。すると羅技は赤龍の手を振り払い、瞳から涙を流した。

「羅技? どうしたのじゃ?」

赤龍が羅技を抱きかかえようとすると、

「赤龍殿、止めて下され。我は今、館へは戻れぬ。どうかその訳も聞いて下さいますな。お願いだ」

赤龍は、赤龍殿と殿付けでかしこまって呼ばれたので驚いた。

「何があったのだ? 何かされたのか? 何時も余を赤龍と呼び捨てておるのに」

赤龍と龍王は鳳炎昴龍を睨み、腰に携えている剣の柄に手をかけた。

「お止め下さい。私は何もされておりませぬ。お止め下さいませ」

「本当に何もされていないのだな?」

「はい。むしろ大切にして下されております。安心して下さいませ」

「兄上様。この朱雀天龍に何か御不満がおありなら申して下さい。今回のこと、いかに兄上様とて許されぬ行いですぞ」

龍王は厳かに言うと、鳳炎昴龍は寂しそうな顔をして黙り込んだ。

「龍王様、鳳炎昴龍様を責めないで下さいませ。お願い致します。そして我に少し時間を下さいませ。帰る時にはこの首飾りにある笛を吹きます」

羅技はまるで子供の様に身体を丸め、うつ伏せると泣き出した。赤龍は身を震わせて泣く羅技の背を優しく摩った。

「羅技よ……。本当に余の元に帰って来るのじゃな?」

「我は赤龍殿の妃です。必ず赤龍殿の元へ帰ります。暫く我の我が儘を許して下さい」

赤龍は、羅技の言葉に何も言えず、龍体へと姿を変え、羅技の泣き顔を見て思わず背を向けた。羅技はその寂しそうな背中に羅技がそっと両の手を合わせた。やがて赤龍と龍王は、龍王殿へと帰って行った。