【前回の記事を読む】「死んでお詫びいたします。どうか父様とムラ人達を許して」

外伝二の巻 鳳炎(ほうえん)(こう)(りゅう)の愛

その頃、気を失っていた羅技は、龍王殿によく似た建物の中で目を覚ました。室内はとても美しい装飾が施されており、もうろうとした意識でしばらく眺めていた。やがて起き上がろうとすると、直ぐに天女が飲み物を差し出した。

「少し熱いのでそっとお飲み下さいませ。お身体が温まります」

「美味い! これはとても美味しい!」

羅技がその飲み物を飲み干した時、龍王によく似た御仁が羅技の前にやって来た。

「手荒なことをして申し訳ない。余は朱雀天龍の兄で鳳炎昴龍じゃ」

「龍王様の兄上様? 鳳炎昴龍様がこの我に何の御用なのですか?」

「そなたに是非頼みたき事があり、無茶を承知でここに連れて来たのじゃ」

「堂々と龍王殿に来られたら良きものなのに? 今頃、赤龍が大騒ぎをしておりますぞ」

「余の願いが叶うのなら赤龍殿にこの命を懸けて詫びるつもりじゃ」

「何と? 命を懸けて詫びられるとは?」

鳳炎昴龍は懐からそっと金色に輝く珠を取り出し、羅技に見せた。

「この中には余の大切な女人が入っておる。余がいくら頼んでも出て来てはくれぬ。叶うものならもう一度触れたい。そなたの噂を聞き、我を忘れて連れ去ってしまったのじゃ。赤龍殿には申し訳ないことをした」

羅技は鳳炎昴龍の優しく寂しそうな眼差しを見て、言葉が出なかった。そして、鳳炎昴龍は珠を大事そうに羅技に渡した。

「この中に入っているのは千世。余が最も愛する女人の魂が入っておる」

羅技は鳳炎昴龍より玉を受け取ると、そっと懐の中に入れた。

「わあ! この珠はとても温かい!」

「これは龍珠と言い、壊れると余も消えてなくなるのじゃ」

「そんなに大事な物なのか。幸も紫龍殿の龍珠の中へ入ったことがあった」

暫くすると羅技の頭の中に、昔の鳳炎昴龍と千世のあまりにも悲しい過去の出来事が走馬灯の様に駆け巡り、羅技の目からは涙がとめどなく頬をつたって流れ落ちた。天女達は羅技の震える背中を優しくそっと摩った。羅技は懐の龍珠を大事に抱えて横になると、鳳炎昴龍の瞳から一滴涙が流れ落ちた。

「千世が出て来るのが嫌ならそれも致し方ない」

「いえ、私が千世殿に呼びかけて出て来て下さる様にお願い致します。このままではお二人がとても気の毒だ」