身を震わし、怒りを顕にしている赤龍の言葉に龍王は眉を顰めた。
「赤龍。何が起きたのじゃ? 羅技姫が黄金色に輝く龍にさらわれただと? 黄金色に輝く龍は父上以外には居ないぞ。それに父上は余と今まで一緒に居たのだが?」
白龍は冷静を保ち尋ねた。
「羅技姫は笛を吹かないのか?」
紫龍が聞くと、
「危険を感じた時に吹けと渡しているのだが……。それに首飾りは羅技自身しか外せない。誰かが無理に取ろうとすると笛が勝手に鳴る様になっておる」
と赤龍は苦しさと焦りで顔を歪めて答えた。
「これは余の兄上様の仕業かもしれぬ」
しばらく龍王は目を閉じて黙り込み、やがて沈黙を破り静かに告げた。龍王に兄が居たことを知る者は一人もいなかったため、一同は驚きを隠せなかった。
「余には兄上が居られるのじゃ。名は鳳炎昴龍。姿形といい、力も龍族の中で兄上に勝る者は居ない。兄上が丁度青龍と同じ歳の頃、全身に酷い怪我を負って地上界より帰って来たのじゃ。それ以後、館にて床に伏せられてしまわれた。余の父上が身罷られた時も床から起き上がれない程まで衰弱しており、眷属の長として天にお仕え出来ぬと、余に後を託されたのじゃ。とても温厚な御方で、心配をかけまいと他の龍族とは一切係わらず、北天の地にて静かにお住まいなのだ。決して悪いことを企てる御方ではない」
「その御方が何故羅技を連れ去ったのでしょう」
赤龍は静かにつぶやいた。やがて知らせを受けた姫達が心配して龍王殿にやって来た。
「龍王様。私は姉上様を探しに行きます。清姉上様は幼い御子がおられ、幸姉上様のお腹には五か月になるやや子が宿っておられます。是非、この紗久弥を連れて行って下さい」
「姫が出ることではない。ここは余が赤龍とともに兄上様の館へ行く」
龍王は龍体に変化すると、その壮大で華麗な姿は周囲を圧倒した。
「兄上は余の比ではない! 余は兄上様にはとても及ばぬ。力量も龍族界の祖、天肖葵炎龍様よりもはるかに優れておられると天は申された程なのじゃ。赤龍よ、参ろう」
赤龍は赤い光と共に龍体に変化し、龍王と北天の地に向けて飛んで行った。