【前回の記事を読む】婚約成立のはずが…「化け物に好かれるとは、可哀想な娘じゃ」
外伝二の巻 鳳炎昴龍の愛
「そなたも余と共に逃げよう」
千世は首を大きく横に振った。すると、父親とムラ人達が広場にやって来た。
「私はムラ人達から疎まれています。でも、鳳炎昴龍様は優しく愛して下さり、后にすると言ってくださいました。父様の所業はあまりにも酷い。鳳炎昴龍様、死んでお詫び致します。どうか父様とムラ人達を許して下さい」
千世は鳳炎昴龍の尾で自分の首を差し貫き、その場に倒れた。そして最後の力を振り絞り、鳳炎昴龍に震える手を差し伸べ、「わ……私の魂をお受け取り下さいませ……」と息も絶え絶えにささやいた。そして、優しく微笑むと目を閉じ、目から一滴涙がこぼれ落ちた。父親やムラ人達は千世の言葉に思わず泣き出した。
「許してくれ。千世よ。お前に寂しい思いをさせてしまった。わしやムラ人達はお前の病が悪くならない様にと気を使っていたのだ。それをお前は嫌われていると勘違いしていたのだな。すまなかった。千世……。どうかこの父を許しておくれ」
「御父上様。千世殿は余が貰い受けます。死しても千世殿の魂は永遠に余と共に在りますゆえ。大事に致します」
鳳炎昴龍は千世を抱き抱えるとふわりと宙に浮かんだ。
「鳳炎昴龍殿! どうか許して下され」
鳳炎昴龍は千世を腕の中にしっかり抱きしめると涙を流し、大声で吠えながら空に昇って行った。いつもの様に、赤龍と羅技姫は地上界の視察に来ていた。普段は空の上より地上界の様子を見下ろしていたが、赤龍は何故か今日は柔らかい草が生えている丘の上に降り立った。
「羅技よ! さあ、降りてみよ!」
「赤龍! 良いのか? 我は地上に降りると龍王様に叱られるのでは?」
「龍王の許しを頂いておる。去年の今日はそなたと出会った日だからな」
羅技は大喜びで草の上に腹這いになり草の香を嗅ぎ、大地の感触を楽しんだ。赤龍は羅技が子供の様にはしゃいでいる姿を見て、思わず吹き出して笑った。羅技は仰向けになって暫く空を眺めていると、北天の空に金色に光る炎を見つけた。赤龍に指を差して教えると、その美しさに見とれている羅技姫の隣で、赤龍は何やら異様な感じを覚えた。
「わあ! 綺麗!」
「はて? 余はあれに似た炎を以前、見た気がするのだが……思い出せぬ」
羅技姫が炎に向かって一歩足を出した瞬間、炎の中から黄金に輝く龍が現れ、一瞬のうちに羅技をさらって消えてしまった。赤龍は炎が出て来た空に向かって舞い上がると、狂った様に探し回った。天上界の門が閉まる時刻が来ると、赤龍はしかたなく門の中に入った。門は鈍い音を発てて閉まった。赤龍は龍王殿に急いで行った。尋常ではない様子の赤龍を見た白龍や紫龍、青龍も、後を追った。
「父上ー。羅技が、羅技が、黄金色に輝く龍に奪い去られてしまいました」