【前回の記事を読む】『おしゃれな服を着てきてね』交際相手とのデート先で待っていたのは…
スタート
約束していた『お泊まりの日』がやってきた。俺は畑仕事を早々に済ませ、車で駅に向かった。やがて電車が着き二人が降りてきた。
「こんにちは」と彼女。
「こんにちは」とオウム返しで答える俺。
「お迎えありがとね」
「こちらこそ。こんな田舎に来てくれて」
「翔ちゃんも。『こんにちは』って言って」
頭を下げて照れ臭そうに小声で言った。
「ごめんね。思春期なもんで」
「全然。さ、ここから車で約一時間かかるから。でこぼこ道や険しい道はないけれど、ホントに田舎だからね。ビックリするなよ」
「私、ここの駅だけでも田舎って感じるんだけど」
「僕も」
「ここで驚いていたら話にならないよ? さ、乗った乗った」
翔太くんは後部座席へ、彼女は自ら助手席に座り、車窓から見える景色を楽しみながらたくさん話した。久しぶりに三人で会うと会話も自然と弾む。なんといっても憧れだった人が助手席に座っているのだ。こんな幸せなことはない。青春時代にタイムスリップしたかのように胸が躍った。
楽しい会話をしているうちに我が家に着いた。
「ここがあなたの家?」
「そうだよ。ホント地味だろ?」
「平屋建てとは聞いていたけど、ホントに古びた家。でも、それが却って趣があっていいわ。翔ちゃんはどう思う?」
「中に入ってみないと分かんないし、泊まってみないと。ホントに不自由なく過ごせてます?」
「必要最低限のものは揃ってるからねえ。全然問題ないよ」
「一人暮らしだから不自由しないんだろうね」
「まあ、とりあえず中に入って」
「お邪魔しま~す。うわ~。外から見るより中は広いのね。土間もあるし。お米は釜で炊いてるんだ。へえ~。掘りごたつもあるし。一人では十分過ぎる広さだね」
「まあね。とりあえず温かい飲み物でも入れてくるから座って」
「失礼しま~す。やっぱり掘りごたつがあるっていいよね~。毛布を重ねると冬はおもわず寝そうになるかも」
「飲み物はコーヒーがいい? それともお茶?」
「私はコーヒー。ブラックで」
「翔太くんは?」
「ミルクだけつけてもらっていいですか」
「分かった。まあ、TVでも見てゆっくりして。その代わりチャンネルは二局しか映らないから」
「は~い」と言いながら彼女はTVを見ず、部屋の回りにあるものを観察し始めた。