不安と確認

今井さん編

月曜日。

「社長、サンジー建設の大崎様がいらっしゃいました」

「サンジー建設の大崎さん? あぁ、先週の彼だな。いいよ、お通しして」

「先週は本当にすみませんでした。恥ずかしくて迷ったのですが、お顔を見てお詫びをしたかったのです」

「わざわざありがとう。大丈夫だよ。妻にショックな事を言われただろ。男には厳しいから」

「僕、初めて女性にはっきり言われました。最低って、女を甘く見るなと衝撃でした。反省しています」

帰って行った。

「ただいまー」

「お帰りなさい。今日もお疲れ様でした」

「今日は俊さんの大好きなキムチ鍋です。お風呂にしますか、それとも私?」

「ゆりがいい~」

「もう~お風呂入って来て下さい」

食事をしながら、「今日さ、昨日の大崎君が会社に来ていたよ。お詫びをしに。なかなかいい青年だったよ」。

「あの失礼な方が?」「意外と常識人だったよ」「ふ~ん、そうなの。俊さんがいいんだったら、許してあげましょうね」

食事が済んで片づけも終わり、ゆりが歩く練習をしている。

「何しているの?」「私の歩き方が変なのかな、見て」

動画スタート。普通に歩いたり、顔を下目に歩いたり。

「スキップしたら変だし」

スキップしたり、かに歩きしたり何と手と足を同じにだしたり。

「変でしょう。足と手が同じだよ。おかしいでしょう。アハハハハ」「分からなくなっちゃった」

今度はツーステップ。

「変な人が歩いているみたいだよ」

腹がよじれそう。

「どう歩けばいいの?」「居酒屋でトイレに行く度に、スキップとか、かに歩きしたら、お客さん、帰ってくださいと言われるぞ」「それは嫌だなぁ~」

本気で考えている。

「じゃあさ~ハチマキは?」

どんな発想だ。聞いてみた。

「どんなハチマキ?」「水かけるなとか、俊さんのものです近寄るな、とかどう?」

びっくり発想。超天然吾妻よ。

「ケンカ売っているみたいだよ」「そうだよね。パス!」

ウケる。笑いをこらえるのが大変。

「トイレ行く時、俊さんと行く。どう?」「僕の時も行く?」「それは変でしょう」

意味不明だけど面白い。山本さん、近藤、裕太へライン。「ゆりのトラブルに巻き込まれない歩き方練習編」「疲れた時、ご夫婦でどうぞ」

翌日、今度は、「ゆりの声をかけられない本の読み方編」動画スタート。ソファーに座って、横向きで読む、本を持つ手を真上で読む、おじさん座りで読む、体育座りで読む、正座で読む。

「集中して本が読めないよ」「そうだろうね。アハハハハ」漫才を見ているようだ。本気で、一生懸命やっている。三人にまたライン。「辛い時、腹が立つ時、どうぞ」可愛くて、愛おしくて、見ているだけでほほ笑んでしまう妻。

「TI会にラインで動画送ったら、喜んでいたよ」

「そう。良かった。俊さん、さっきから笑ってばっかり。やってみて」

「ロダンの考えるスタイル」

「仁王立ちスタイル」

「うふふふ。俊さん、変よ。漫才師みたい。おかしい~」

「君に言われたくないな~」

「何で?」

「君は漫才師だろう」

「はぁ~ん、何言っているの」

と顔を両手で挟まれた。世の男性よ。僕がうらやましいだろう。こんな素敵な女性が妻であることが。