見つけた一枚の便箋

二月二十七日(日)

昨夜、寝室から布団を運び出そうとした時、夫が

「上で寝ないのか?」

と言ったので、黙って夫の顔を見返すと、

「すみません」

と。今は静かに言ってくれているが、一つスイッチが入れば、間違いなく、舌打ちしたり、怒鳴り散らしたり……ということになる。それを思うと、(やっぱり戻ったほうがいいのかも……)と思いつつも、戻りたくない自分がいる。

実際、昨晩独りで寝てみたら、ゆっくり眠れたし、ほんの一晩でもそうしたことで、いくらか体調が落ち着いたように思える。夫は昼近くに起きてきてシャワーを浴びると、台所に寄らずに出かけていった。

どうせまた外出するのだろうとは思っていたが、食事をしないで出かけるというのは計算外だった。次女の佳奈美(かなみ)は現在高校二年。三日後に年度末の保護者面談を控えていたので、食事をしながら、進路のことを相談しようと思っていたのに……。

仕方がないので、メールで相談したところ、次のような返事が返ってきた。〈子どもの学校のことで、今さら何も言うことはありません〉そして――〈これから食事はいつも外で食べることにします〉とも。

おそらく昨日、私が布団を抱えて一階へおりるのを、

「すみません」

と言って見送ってからのことだろうが……孝雄のメールによれば、お義母さんの部屋に行き、

「景子が介護していることで肩身が狭い」

と言ったら、

「そんなに気い遣うんやったら、うちのお金使って楽させてやり」

と言われたので、〈そのまま食事で実践します〉とのこと。(ほんまやろうか……)

以後、孝雄は、外で食べるというより、カップ麵(めん)を買って帰ってくることが多くなった。とはいっても、なにしろ言うこと、やることがコロコロ変わる人だ。

私は、いつ「食べる」と言われてもすぐに用意できるように、常に、ある程度の準備はしておくようにしていた。

三月四日(金)

朝、夫を車で最寄り駅まで送ろうとした時の出来事。

「悪いけど、藤沢本町まで行ってくれるか?」

「藤沢本町でいいの?」

行先を確認し、カーナビをセットして出発。途中、

「どこを走ってるんや?」

と機嫌悪そうに聞いてきたので、

「藤沢本町に入った」

と答えると、

「なんで藤沢本町なんや!」

と怒鳴り声が……。(えっ……!?)

と思った瞬間、カーナビの指示を聞きのがし、曲がるところを曲がりそこねてしまった。それでまた夫は怒り狂い、急いで携帯電話をプッシュする。

そして相手が出ると、急に機嫌良さげに約束の場所を確認し、間に合わないことを伝えて切った。助手席でイライラしながら、今度は自分自身に叫ぶように言う。

「なんで藤沢本町って言ったんや!」