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第一章 偶然現場を見た
「明日から行くから」と。
私は無視して二階に上がった。主人がシャワーから上がって寝室に入ってきた。主人に背を向け寝ているふり、主人が私のベッドに入って来た。
「何!」
大声で言い放った。主人は何も言わず私を抱こうとした。
「何を考えているの!」「やめて!」
主人は人が変わったように無理やりキスをし、パジャマを脱がしている。
「放して!」
言っても手を止めない。凄い力。初めてだ。首にキスをし、胸をつかんでくる。少し怖い。抵抗するが止めない。抵抗を止めたら、主人はゆっくりと愛撫を始めた。
私は諦めて、動かず天井をジッと見詰めていた。悲しくて涙があふれた。主人はびっくりして手を止めた。私は声を上げて泣いた。
「もうあなたを愛せない!」「別れよう!」
主人は部屋を出て行った。主人は抱けば許してもらえると思ったのだろう。侮辱している。許せない。三十一年間一筋に愛していた人なのに悲しかった。寂しい別れの時だった。
朝、お互い気まずい。彼は早目に身支度をして出社した。一日中、泣いたり、怒ったり、悲しんだり今までどれだけ幸せだったかと思うばかりだった。
こんなに悲しいのにお腹は空く。即席ラーメンを食べたら素直に美味しい。まずはクローゼットの整理。ダンボール箱に必要な物を詰めていくがため息が出る。
明日からアパート探し、引っ越し費用の計算、テレビ、洗濯機、台所用品すべて請求しよう。でも……何だろう。このワクワク感、あれ何だろう。楽しい気分、不思議。
姉三人に相談しアパートを見学。五件見て気に入った物件があった。2LDK、孫達が泊まるので二部屋は必要だ。家賃五万七千円、共益費二千円、約六万円想定内、光熱費二万円、食費七万円、その他二万円、合計十七万円、給料手取り十七万円、ギリギリだ。
出来るところまでやってみよう。ヘソクリが八十万円あるし、頑張るぞぅ。予定通り三千万円はお願いして財産分与して貰おう。これで息子達に迷惑かけずに生きていけそうだ。自分の為に自分の用意が出来る。自分の為に生きよう。ワクワク、ドキドキ変な気分。
主人はどうだろう。彼女と第三の人生を楽しんでほしい。本心だ。契約を済ませ、これから買い物に行こう。ショッピングセンターで雑貨、キッチン用品、子供夫婦、孫達の食器など、結構揃える物が有って楽しい買い物だ。スタバで一休み。大好きなキャラメルマキアート飲みながら一息ついた。
目の前に親子連れ、夫婦連れを見ても寂しさはない。
「これから帰って夕飯作りかな」「大変だろうな」と主婦放棄の状態だと思った。もう少し買い物して帰ろうかとスタバを出た。ブティックのウインドウに大好きな水色のカーディガン、入って試着したら、似合っている。
「まだまだ、いけているね!」
買うことにした。ルンルンで店を出た。今日の夕飯は惣菜で済ませよう。ラッキー。外に出たら風が少し冷たかった。今年はどんな冬を迎えるのかなぁと思いを巡らせた。
さぁ、明日も買い物、楽しみ。家電用品を見に行こう。大量の洋服、できるだけ断捨離をしよう。アクセサリー、バッグ。段ボール箱、十箱でも足りない。
頭で「断捨離、断捨離」とつぶやきながら片づけをした。アクセサリーで何点か主人と旅行で買ったネックレスがある。良く使うので持って行くことにした。
あの瞬間から五日が過ぎている。そろそろ息子達に話さなければいけない。私の心は決まっているがまず主人とこれからの話をしよう。
「明日、これからの事を話したい。子供達も呼ぶので夜来てくれる?」
「わかった」
と一言。