ほころび
八月十一日(木)
義母の初盆を三日後に控えたこの日、孝雄の携帯電話をのぞいていたら、今度は、こんなメールのやりとりを見つけてしまった……。
相手は女性ではなく、仕事の取引先の男性のようだ。
〈お世話になります。十四日の日曜日の晩、あの店は開いているそうです。お付き合いできそうですけど、どうされます?〉
〈連絡ありがとうございます。十四日の件ですが、今年は母の初盆にあたり、兵庫から泊まりで来る親戚がいて、その相手をすることになりました。出られたとしても随分遅い時間になりそうなので、次の機会にさせてください。お声がけしておきながら申し訳ありません〉
(兵庫の親戚って……私の実家しかおらんやん。けど、誰も来る予定はないし……ひょっとして、私らのことか? ようも自分の家族を親戚の人やなんて……)
孝雄が外で私と娘たちのことを、こんなふうに言っていたのだと知って、とても腹立たしく思った。この人に孝雄が自分から、新しい飲み屋のお姉ちゃんを紹介してもらおうと頼んだようだが……ということは、この人は心菜さんのお店に行った時のメンバーの一人に違いない。
口説こうとする女には独身だと言い、紹介してもらう仲間には家族を親戚と言い、妻には女なんているはずがないと言う……。
(ほんまに、この人は嘘ばっかりや……)
嘘を言われて信じる相手も相手だ。介護しなければならない母親がいて、その母親が入院して亡くなり、葬儀を終えて、もうすぐ初盆……。
ほとんど家に帰らない孝雄とその時間の多くを共有している人たちに、このことを、まったく知らなかったとは言わせないし、その母親を看ていたのが奥さんだと思わなかったというところがおかしい。
私はあまりに許せない気持ちになり、初盆が終わってから、この取引先の男性に、
〈女性を夫に紹介するのは今後一切やめてもらいたい、やめない場合は公表する〉
という旨の警告メールを送った。ちなみに初盆の前日の十三日には、心菜さんから夫に、
〈たーのバーカ〉
というメールが送られてきていた。新しいお姉ちゃんを紹介してもらうことになっていた「あの店」とは、ひょっとして、心菜さんが働いているお店のことだったんだろうか……懲(こ)りない人たちやなぁ。
例の取引先の男性に警告メールを送ってから二、三日して、孝雄から以下のようなメールが届いた。
〈おはようございます。昨夜も帰れなかったので、メールですみません――〉
――私への苦情は私に言ってください。第三者にメールしたり、話したりすることは、世間や会社や会社関係者に広がるものと思ってください。その人を信頼して伝えたつもりでも、その次にそれを聞いた人は、あること、ないこと、おもしろおかしく、あるいは悪意をもって話して世間に広まります。
私を懲らしめて苦しめるためにやったんでしょうから、悪いのは私で、私は何をされても仕方がないのですが、名前が傷ついて、将来、子どもたちが悲しむようなことは、やめてほしいです。メールは通信機器ですから、いくらでも広まります。
〈――勝手ばかり言ってすみません〉
対する私の返信。