【前回の記事を読む】会社内に恐喝の犯人が…?姿の見えない脅威に怯える日々
置き去り
翌日、大変なことが起こった。見たこともない、得体の知れない敵だと思われる人間から、手紙が職場に届いた。『あなた方の運命は、私が握っています。はかない命かもしれません。寂しいですね。夢みたいなことを言っていても仕方ないですよ』すかさず、舞が言った。
「犯人から脅迫状がきたんだわ! 警察に言った方がいい」
何が何だかわからないでいる職場の人間を尻目に、舞は警察を呼んだ。なかなか解決しないが、警察が本格的に動き出したら、何とかなる、そうなるはずだと期待したかった。確かに警察は事件として動き出した。
「これは脅迫ですね。言うなれば、この職場の人全員に対して、脅しているわけです。何が目的かはわかりません。恨みや憎しみか、あるいは金銭が目的か。あなた方は全員、気をつけてください。自分には何もないかもしれないとは、思わないでください。実際に、二、三人のこの職場の人が被害に遭っています」
と、警察官が言ったとき、職場の人間の間で、大きなどよめきがあがった。
「気をつけて! 何かあったらすぐ警察に言ってください。犯人を逮捕するまでは、くれぐれも気をつけて」
映画館で眠くなり、その後記憶がないことをこの場で言おうか迷ったが、必ずしも全員がいい人間とは思えないのでやめた。犯人は、言いたいことを言わず、この場にいる可能性だってあるから。強いて言えば、解決は必ず……できるはずだろうから。だけど、まあしかたないが、この場では何も進まなかった。
ただ、被害に遭ったのは、私と舞らしいという噂は、後日流れてしまい、私の事件もその後なぜか職場の人たちの知るところとなってしまった。疑えばキリがないが、誰が怪しいか考えるしかない気がした。職場では誰もが疑心暗鬼になっていた。舞とは、初めて職場の人間一人一人について、怪しいところがないか話し合った。塚本さん、内藤さん、高橋さん、棚田さん、町田さん、大川さん、上田さん、橋本さん、斎藤さん……。
たいしたことがなくても、情報交換した。舞は遠慮なく、悪口も含めて語りだした。
「大川さんて、たかが課長代理なのに横柄な口のきき方よね」とか、
「棚田さんて、変に女の子の会話を立ち聞きしているところがある」とか、
「高橋さんは、かわいい女の子にしか仕事を頼まない」とか、
「町田さんは、おおらかに感じるけど、キレたら結構怖い」とか、
「斎藤さんて、話しても、あまり印象にないよね」とか、
「内藤さんは、疑うところはない気がする」とか、
「塚本さんは、必ず意味深な笑顔で話しかけてくるよね」とか、
「上田さんは、あまり話すことが好きじゃないタイプだね」とか、
「橋本さんは、最低! 得体の知れない爬虫類を飼っているって」とか……。