「今までたくさん我が儘ばかり言ってごめんなさい。これからは姉上様を困らせることは致しません。どうぞお気を確かにして下さいませ」

紗久弥姫も声を震わせながら言った。すると、羅技姫の身体の震えは激しくなり、唇の色も血の気がひいた様になった。清姫と紗久弥姫は肩や背中を必死で摩ってやり、心配そうに状態を見守った。赤龍は羅技姫が敵討ちに用いた剣と鞘、そして保繁の返り血を浴びた領巾を白龍から受け取ると、湖の真ん中辺りに飛んで行き、水面に落とした。

そして紫龍、青龍と絡み合う様に空高く舞いながら駆け昇って行き、姿が見えなくなったかと思うと、今度は凄い勢いで湖に飛び込んだ。湖の中からは大きな唸り声が鳴り響き、里の大地が大きく揺れ出すと同時に、湖の水が溢れ、瞬く間に里の全てを飲み込んでいった。

辺りが明るくなると、そこには大きく美しい湖が現れた。湖から飛び出て来た三匹の龍は、白龍達の所へ静かに舞い降ると人型に姿を変えた。赤龍は、顔色が真っ青になり震える羅技姫を、そっと抱きとった。

「羅技姫……」

「暫くそっと抱いて温めてやれ」と白龍は言った。「この髪は?」と赤龍が尋ねると、「白龍殿が貴方様の妃になるに相応しい女子の髪にと変えて下さいました」と清姫が答えた。

「赤龍よ! こうけいの髪が似合う女子は、天界でもなかなか居ないぞ! そなたは目が高いな」

「あ、兄上」

白龍は真っ赤な顔をした赤龍に微笑みを向けた。

「我は仇打ちをと息巻いていたが、このざまじゃ。身体の震えが止まらず寒い。如何なる理由にせよ人が人を殺めたので神の怒りを受けたのじゃ。我は貴方様との約束を果たせそうもない。どうか許して下され」

羅技姫は赤龍の顔を見るのが辛いと感じた。

「命の尊さを知ってこそ余の妃に相応しい! そなたは女の身でありながら里を守るが為、堂々と嫡男に扮して戦ってきた。それがどれだけ辛かったであろう……。今は何も考えずに静かに眠れ……」

羅技姫はがっくりと項垂れて、赤龍の胸の中に顔を埋める様に眠りに落ちた。

「可哀相に……。刃を交わした時は感じなかったが、こうして抱えてみると、何と華奢な身なのだ。余の腕の中にすっぽりと入る小さき姫よ……」

赤龍は身体を小さく震わす羅技姫が愛おしく、そっと口付けをした。