そこで私は、その多くの人たちが成し得なかったクマネズミの捕獲具を一から作ろうと思い立った訳である。ネズミの介在が疑われている狂牛病も鳥インフルエンザも、もしクマネズミがその病の蔓延に大きな役割を果たしていると判明した場合に駆除の手立てがないようでは話にならない。

さらに、東南アジアでは数百万人分の食料がネズミによって失われていると聞く。今までに多くの被害を与えてきた、あるいは今後も新たに被害を与えるかもしれないネズミを退治する道具として捕獲具があるが、何故その開発が今日に至るまで放置されていたのかが分からない。

過去の多くの研究者たちが成し得なかったことなのだから、相当手強いに違いない。当時の私は、クマネズミを捕獲することがどれほど困難なのか全く分かっていなかったが、取り組む課題として不足はないと感じた。

多くの研究者が挑戦したであろう捕獲具の開発は金属の材料と加工技術が格段に進歩した現在、様々な発想を元に試作することが可能になっている。

開発初期に一度、通過センサーと電磁石を用いてネズミを捕獲したことがある。日本橋で通過センサーを購入してプラスチックの容器に仕掛けを内蔵して全て手作りで作ってみた。プラスチック素材の表面と曲面はネズミによって齧られることはないだろうと考えてプラスチックの容器を用いた。そして、ネズミが仕掛けに対してどのように反応するのかを知りたくて暗視カメラを購入しその様子を撮影した。

1回目の設置で、翌日にはうまく1匹を捕まえることができた。農家で捕獲したので種類までは分かっていないが、中くらいの大きさでハツカネズミではなかった。撮影された映像には1匹のネズミが仕掛けに対してとても慎重な行動をとる様子が映っていた。捕獲の瞬間には、電磁石が作動するときの小さな金属音にさえ驚き、飛び上がる様子が映っている。

初めて作った仕掛けでネズミを捕獲し、映像として残すことができた私は、いきなりうまくいったことから夢中になった。ドツボにはまるきっかけとなる成功例である。

今ではこのような機器を使うことによって、簡単にネズミの行動を調べることができるのだが、進んで行動を観察しようとする人が少ない。もちろん、仕掛けに対するネズミの行動を観察するのだから、仕掛けが必要になってくる。仕掛けを試作するためのアイデアと資金が必要になるので誰でもそう簡単に取り組むことはできない。それをあえてやろうとしたのだ。誰もやっていないことを面白がってやろうとする物好きはそういないだろう。