【前回の記事を読む】「そなたの笑顔を見るだけで力が湧く」姉妹のささやかな会話

羅技姫、敵討ちへ

 

「我は幸姫と双子の姉の羅技と申します。妹の幸姫を御存じありませぬか? 命を絶っておると思いますが……」

「そうか! そなたが羅技姫! 幸姫とは瓜二つよのう!」

若者は先ほどまでの険しい顔つきを緩ませ、懐から虹色の珠を取り出した。すると、珠が虹色の光を放ち、幸姫が光の中から現れた。

「あっ!」

一同は驚きの声をあげ、紗久弥姫は喜び、幸姫に抱き付こうとすると幸姫の身体をすっと通り抜けた。

「姉上様の御身体に触れることが出来ません」

紗久弥姫の瞳から大粒の涙が零れ落ちた。

「私は崖から飛び降りて命を絶ちました。今は紫龍様が私の魂を龍珠の中へ留めて下さっておられます」

紗久弥姫は懐から領巾の包みを出し、中に在る髪の毛の束を見せた。

「まあ! 持っていてくれたのですね」

紫龍は紗久弥姫から領巾に包まれている幸姫の髪の毛の束を受け取ると、ふっと息を吹きかけて消し、

「紗久弥姫。龍族界に上がれば以前の様に姉上に触れる事が出来る」

と言った。

「本当なの?」

紗久弥姫は大きな声を出した。

「紫龍様の龍玉が私の魂が安心して居られる依り代なのです」

幸姫は紫龍が手に持っている龍玉の中に入ると、紫龍は龍玉を懐に入れた。紗久弥姫は嬉しくなり、思わず紫龍に抱き付いた。すると、青龍は慌てて紗久弥姫を手元へと引き寄せた。

「余以外、抱き付くではない。特に兄上様には……」

「幸と紗久弥は嬉しくなるとつい、抱き付く癖がある! とても可愛いであろう!」

羅技は笑いながら青龍に言った。青龍と紫龍はお互いの顔を見合わせてう~んと唸った。

「清姉上様! 我の領巾で袖を包んで下され。これでは剣が振れませぬゆえ……」

清姫は領巾で羅技の袖を包んでやった。

「ありがとうございまする」

「時は来た! さあ行こうぞ!」

白龍は赤龍、紫龍、青龍に合図を送ると、三人は自ら光を発して龍の姿に変化した。

「羅技姫よ、行くぞ!」

「はい!」

赤龍の呼びかけに、羅技姫が答えた。羅技姫が赤龍の背に飛び乗ると、赤龍は空に向かって駆け上がって行った。白龍は両の手を高く掲げると、天に向かって声をあげた。

「尊き天よ! 我の后と弟達の妃が住んでいた龍神守の里。御父上が守り、鏡を授けられし里が阿修の輩に攻め入られ、御舅殿と、付き従うわずかな武人達がなぶり殺されました。羅技姫に保繁一人の首を討ちに行かせて下されませ。下血で汚れた里の大地は我ら龍王が皇子の赤龍、紫龍、青龍が清めに参ります」