アストラルな池を潜り抜けて
フォールの頭はまたもや、極限まで、未知の果てまで引き伸ばされたような感じがしていました。そこから、まさに新たな世界が広がっていたのですが、彼にはまだ足を踏み入れる勇気がありませんでした。
彼は大切なノートに目をやりましたが、書くべき言葉が見つかりませんでした。
あまりに多くのことが頭に浮かんできて、時間が必要でした。「あれ」をすべて言葉にする時間が……。
まだ夜は明けていませんでしたが、フォールはゆっくり眠ることができずにいました。「ぼくの中には、いったいどれくらいの自分がいるんだろう? どれくらい自分を失くしちゃったんだろう? それらを全部回復することができるんだろうか? どうやって回復すればいいんだろう?」疑問が次から次へと湧いてきて、眠らせてくれないのでした。
するとどこからともなく、懐かしい声が響いて来ました。それが誰であるかはすぐにわかりました。エムでした。「フォール、最初の『フィジカル・ドリーム』で出会った苦しい闘いを覚えているかい?」
彼は熱っぽく答えました。「忘れようがないですよ! ものすごく怖かったんだから。もう気が狂うかと思いました」フォールの声は上ずっていました。「やつらがほとんど一晩おきに襲って来て、クタクタでしたよ」
「『やつら』だって?」エムが口を挟みました。「『やつら』って、誰のことだね、フォール?」
その問いかけに、フォールは一瞬たじろぎました。「やつら」とはもちろん、彼には知る由もない理由で彼に襲い掛かった負のエネルギー、明らかに悪意ある実体のことでした。エムはフォールの思いを遮って言いました。「フム……負のエネルギーねぇ……それは、お前がそう名付けただけのことじゃないかい? あれは本当はね、お前の気づきを邪魔していた複数のお前なのだよ……だから、複数のお前が『お前』と闘っていたのだ、『お前』を引き留めようとしたのだよ。より大きな『お前』を、気づきの栄光の中に燦然と輝く『お前』をね」
「えぇっ?? じゃぁ、ぼくは自分と闘っていたって言うわけですか? あのすさまじい闘い全部を??」
「全部が全部ってわけじゃないさ。だけど、ほとんどとは言えるね」
この言葉に、フォールは再び面食らってしまいました。
天使は、笑みを含んだ声で続けました。「お前は彼らに言っていたじゃないか、と言うより、怒鳴っていたがね、『今じゃないだろう! なんで今なんだよ!』ってね。そのことを考えてみたことはあるかい」
「うーん、あの時は不思議だったんだ。確かにぼくは、あの時、あの恐ろしい闘いの時、それを繰り返し口にしていた……」フォールは、頬を赤らめてつぶやきました。
「フォール、『お前』は、『そこにいた大きなお前』は、自分が気づきの最中だということを知っていた。物事を動かすために、進化の歩みを進めるために、その瞬間を選んだことを知っていた。だから、『誰か』がその歩みを邪魔しようとした時、それはお前には明らかに受け入れがたいことで、我慢がならなかったのだ」
天使は続けました。「だから、お前も気づいているように、悪意ある実体は確かに低い次元に棲んでいるが、あのエネルギーの格闘の多くは、お前自身の隠れた部分、つまり『影』との闘いだったのだよ、忘れたのかね?」
フォールはため息をつきました。「あぁ、『影』か! 覚えています。『影』は、完全になるために、ぼくと統合されるのを待っていると至高の神さまは仰いました。
『影』に感謝しなさいって。『影』のおかげで、内に埋もれていた力を見つけられるからだ、みたいなことを……」
大きくとどろくような声が割り込んできました。
「『影』が現れるまで自分でも気が付かなかった力のことだ。不本意ながら、しかもそれと知らずにせっせとお前に働きかけてくれる『影』に感謝するのだよ。『影』はお前に『光』を恋焦がれさせるためにいる」
フォールは驚きのあまり、開いた口がふさがりませんでした。「おおぉ、至高の神さま……」
「ちょっと引用しただけだがね」クスッと笑いながら、至高の神は切り返しました。
「どうした、フォール? お前がレッスンをちゃんと覚えていてくれて、嬉しいよ」
フォールは、気の利いた返事をしたいと思いましたが、何も思いつきませんでした。あまりにたくさんのことを教えられて、圧倒されてしまい、体の力が抜けそうでした。それに、昨晩は一睡もできていなかったのです。
「少しお休み、フォール」至高の神は優しくささやきました。「そして、天使たちの愛のメッセージをお待ち」そう言って、至高の神は天使と共に去っていきました。
「何だって?! また天使たちがやって来るって?」フォールは思わず頭を上げました。