耿介を大好きなお父さんを大好きなお母さんを大好きな耿介、とメロディアスにあやす淳さんに耿介はどんどん図々しくなって昼夜構わず泣いて呼ぶ。用もないのに。抱っこがいいと甘えるんだ。
一か月くらいはいいでしょ。無心におっぱいを吸って、とろとろしながらげっぷして、酔っ払いみたいにウイッて自分できょとんとする。甘酸っぱい匂いの便を出す。
飽きないが、夜泣きは敵わない。ほんの一時と唱えながら抱き上げる淳さんも朦朧としていて、ねんねしなきゃお父さんはお仕事できない、お仕事できないとお母さんが腹ぺこ、お母さんが腹ぺこではおっぱい出ない、おっぱい出ないと耿介が泣いちゃう、耿介が泣いちゃうとお父さんがねんねできない。ねんねできないばかりの繰り返しになる。
親父が、休職扱いだ、家で昼寝しろと言ってくれる。そうさせてもらう。一時とはいつまでのことなのか。義父たちはライヴで逢わせろと言うから毎週動画を送る。
アイネクライネも四〇番も泣き出したら効き目がないと訴えたら、銀色とブルーのガムランボールを贈ってくれた。開けない掌に握らせると耳を澄ますようで、小さい微かな谺が伝わるらしい。泣くことを忘れるようだった。
一か月検診の頃だ。耿介は初めて家を出た。数え切れない初めてがこれから続くんだ。もちろん、順調。
他所の母子を視て、俺の息子が耿介だと追認した。淳さんはもう周囲に圧倒されないで、俺が恋い慕う姉さん女房になっていた。