親子三人での暮らしが始まる

朝夕少し良くなったと言うが表情が冴えない。俺が焦って、出生届、名前つけよう、あなたの好きに。名前に合わせて生まれるのは窮屈だと母親が妙な理屈をつけるので、じゃあ生まれた子に合わせてつけようと言うことになっていた。

八汐くんつけて。

あなたの方が語彙豊かだ。

こうすけはどう?

たかはらこうすけ、うん、すごくいい。字は?

字で遊びたくない。さらっと耿介。

耿介、さらっと、ね。いいなあ。どっぷりと親莫迦。

役所の届で嬉しいのは婚姻届と出生届くらいじゃないか。貼り紙しても次の日には剥げてるんじゃないかと思うくらい、出来たての赤ん坊と名前は一致しない。足首の輪っかとベッドに耿介と記名された。

明日で一週間になるのに退院の話が出ない。看護師は先生に訊いておきますなんて全く不親切な。廊下で見かけた女医を追っかけて、女房が悪いんですか? 退院、無理ですか?

たかはらこうすけくん、いい名前ね。そんなことはいいから、いや、ありがとう。耿介も、順調じゃない?

退院していいと思うのよ。お母さんが気力出せば。あれじゃ筋力落ちて育児どころじゃなくなるわ。

ええっ。

ごく正常な分娩だったの。小さい子だったけど会陰切開したの。跡がまだ痛むだけよ。糸は溶けてなくなります。トイレが大変だったわね。

そんなこと気にしているみたい。安心できるまで置いてあげていいけれど、そりゃ早く帰った方がいいわよ、母子ともに。

俺しか知らないはずの陰部を想って熱くなったり冷たくなったりした。淳さん、帰ろう。僕一人じゃ半身不随だよ。全快するまで授乳以外僕が全部やる。

一時間でも早く三人の暮らし始めよう。せっかくの描く時間、毎日ここで潰しちゃったし。帰ればまたあなたの時間が無くなるし。マイナス思考はよくないよ。あなたの気遣いは時々的を外れる。

仕事休めたのがこれ幸いだ。『午後の家族』も出来上がっている。帰ろうね。風呂の入れ方を実習して退院した。