彼女の死後、見つかった雑記帳…

「子供を残して恭子に先立たれてしまってからのことなんですがね、どうも私は家内のことについては殆ど何も知ってはいなかったなということに気がついたんですよ。家内が亡くなってから少し落ち着いた頃ですが、葬儀に来てくれた人たち以外にも家内の知り合いがいることもあるかと思い、その人たちにも知らせようと彼女の持ち物を少し整理していこうと思いつきました。

妻が使っていたパソコンのほうはIDが分からないので開けられずじまいで、携帯のほうはどういうわけか見当たらなかったのですが、彼女の日記帳というか雑記帳めいたものが見つかりました。そこに住所録という欄があって、たくさん人の名と連絡先が並んで書かれてあったものですから……」

ここで高梨は少し間をおいてから再び話し始めた。

「それで、葬儀に来てもらった人たちを除いてですね、住所一覧に記載の人たちに家内が亡くなったことを知らせたんですよ。そうしますと故人の思い出といった形で生前の家内とどのような交友があったかなど、慰めの言葉といっしょに書いてきてくれた人が五人ぐらいだったか、おられました。

そこには私には想像もできないような妻の振る舞いとか、彼女の性格について書かれてあるのも若干含まれておりました。もちろん私が知り合う前の彼女のことを書いてきた人もいたので当然といえば当然なのでしょうが。彼女とつき合いだしてから結構長い間続いた結婚生活から全く私などが見てとれなかったことが書かれてあったんですね。

その日記めいた箇所もある彼女の雑記帳に展覧会などにご一緒したなど、時々あなたの名前も出てくるものですから。そういう事情で妻とも私とも知り合っていた人として一度はお話ししたいものだと思っておりました。

率直に言って彼女はどんな人間だったのか、私が知らない彼女の性格など、ひょっとして知っておられるところもあるんじゃないかと思ったわけです。ともかく知りたいんですよ、多分私が全然関知していない性格の表れとか、妻が何かこう独特の考え方を持ち出してきたとかですね……」