「はっきりとはまだ」
「面白いな。男四人で飲む日があるんだろうかなあ」
「もう観念したね」
「怖くなくなったわけじゃないの。もう、これじゃしょうがないもの」
「周り中役立たずの野郎ばかりだね、この先も君は」
「そんなことないのよ。八汐くんが絵を描いているのを見るのが凄く好きらしい。音楽聴くよりも。一所懸命描いてくれてるわ」
「好きなのは淳さんだろう」
「1.5人がそうなの」
「絵を描くのか。前、その話は出なかった」
「そう。八汐くんは売るのが下手なの」
「下手だけど売れると嬉しい。札の匂いにふらふらとなる」
「お金になったの。小さい車を買おうって」
「なるほど」
「なるほど……どうせなら小さくない方がいい。大きくて走りが安定していて、疲れないの、家族向きだ。シビックよりいいのを買ってあげよう。お祝いに」
「とんでもない!」
「君らの楽しみ奪っちゃ悪いが、利用価値が大きい。知り合いに伝てがあるだろう、いい買い物ができる。役立つものを贈れて僕らも嬉しい」
「大きいのは駐車に困る。小回りが利かないと、仕事に使いにくい」
「カースペース広げて、そうか、あの玄関は、門の位置をずらさなきゃだめか。ずらせばいい。やってあげるよ」
「仕事、そろそろ休止なり廃止なりしないと」
「そうだ。押してくるとやっつけることになる」
「あの」
「絵はどこで売るの?」
「町田画廊って小さい画廊が契約してくれました。まだ値打ちはわからないんです」
「八汐くんがわからないの。八汐くんは描くのが好きなの」
淳が父親と重信の介入に応戦している。八汐は気付く。二人の交感に。愉し気な二人は、此間のボート部の話を思い出しても、恋人なんだ。胸が痞つかえた。ああ、そうだったのか……コニャックを炭酸水で割るか、生を炭酸水で流しながら? 飲むかと言い合っている二人。そうか、そうか。
「僕? 割ります。あ、今はパス。甘酒は、走水で飲んだ」
「覚えてるんだ」
「あなたとのことは忘れない。あれ、美味かった。こいつ、わかるんだよ」
二人は婿に気兼ねもせず淳にあれこれ家政の口出ししては返り討ちに会っている。愉しそうに。八汐が無縁だと思っていた、想像さえしなかった、平凡な生活が始まっている。淳はすぐに『こまち』の廃止届を出した。年寄りたちへの説明や引き継ぎで外を回らなければならないから、八汐は、悪いけど、と誤魔化して工房を抜けては車で付き合った。