「失点」を重ねてしまい…
八汐の方はどうだったか。
彼は一方ならず緊張していた。淳が何か頼りなく駅の改札階へ上がっていくのをライトバンの窓から見えなくなるまで見送って、のろのろと義父になる人の家に、淳の実家に向かった。二時間走って電柱に目的地の町名を視た時には車を停めてしまったほど、気後れした。尋常じゃない重圧だ。
住宅街に溶け込んでいる古いが手入れされた家は門扉が開け放たれて、中に空のカースペースが見えたので、構わず乗り付けた。緊張は最高潮で、車を出て玄関を睨んだら、年配の男二人が笑顔で立っていた。どうも、とか、やあ、とか言いながら招じ入れられて、初めましてと挨拶にかかると
「まず、上着とネクタイ取り給え。僕らも平ひらだ」
手を貸さんばかりで、室町だ、重信だ、と握手する。
「なんとか対面に漕ぎ着けた」
「茶くらい出せるが、酒でもビールでもいいよ」
交々言う。
「なんでも戴きます」
この科白は拙かった、失点一と思っていると、一人が、体格や胡麻塩頭や雰囲気が似ていて声がバスとハスキーの違いくらい、どちらも淳に似ていない、バスの方が、父親だ
「型どおりのことをアルコール抜きで済ませよう」
それで珈琲になった。
「あれの家族、僕らだが、変則でね。聴いたかい?」
「はい……養女と」
「……うん。僕らが、切れない仲で、しかも家にいないことが多かった。母親が思いがけず若死にしたことであれが傷ついて、僕らだって今も痛恨の思いだが、歳食っちまった」
「歳、そんなに重要ですか」
「重要さ。僕らみたいに老いて来ればなおさらだ。一人で歳取っていくのを辛い思いで視ているところへ、黙って結婚されて。母親にも娘にも離縁されたようでさ」
「お前、珈琲でそれだから。鷹原八汐くん、僕も淳の養い親のつもりなんだ。僕らの最愛の娘を射止めた男は天晴な奴だ。だからそいつに無視されたら、まあ、堪えるよな」
「あの、あの、順番に行きます。僕が口説きました。僕は育ちが悪くて礼儀作法を弁えませんが、淳さんとのことだけは完璧にしたかったです。僕に無理しないようにって、歳のことです、違うのに、縺れました。結局入籍できていません」
「全く別の筋から聴かされた。戸籍を視たら動いてない」
「それ、謝ります。強制できませんでした。その上、淳さんの家に転がり込みました」
「淳、思い込む性質だ、母親似だ。そこが美点なんだが、母親同様不幸を招きかねない。しっかりした奴についていてやって欲しいと願うのが親心だ」
「僕はしっかりしていない。淳さんに傍にいて欲しい、笑顔でいて欲しい。すみません。ただの男の願望しかなくて」
失点二。ちょっと間があった。どちらかが
「籍の問題じゃなし……」
「我が身を顧みれば、となるし……」
「そうだ、君の親御さんは?」
「僕は父と弟だけです。僕より淳さんにぞっこんです。迷惑だから家を教えていません」
だめだ。失点三。