淳。電話で説教聴かされちゃったね。僕らがしょっちゅう国外にいるせいで、とまず言い訳しておかないとね。情報のタイムラグに狼狽(うろた)えちゃったんだ。僕の後輩はいい奴なんだ。奥さんの両親が、彼に言わせると善良な年寄りで、生方くんから君のことを打ち明けられていたそうだ。地球の裏側の風土病で死ぬなんて不憫だって思い詰めて、君に逢わせられないかと頼まれたんだって。君の結婚を知ったのに頼むのはどうもね。非常時だと思ってくれ。

逢って話せるといいね。僕らももう今までのように出歩けなくなった。客死なんて独り善がりしてもMERSみたいなことじゃ傍迷惑が甚大だ。君たちと、君と君のベターハーフと、いつでも逢えるようになる。お祝いをさせてもらう。

腹を立てていいのに。お母さんに負い目があるから。わたしの不作法は認めなくちゃ。それでも、皆老いる。皆過ぎ去っていく。あの人がもし死んでしまったら……

「朝飯とあなたの昼の弁当作って行くから、食べてくれ。僕は昼飯、あいつらと食う。賑やかな方がいいんだ、あんまりいい目に遭ってこなかった奴らだから」

「絵に夢中のあなたが好きだと言ったのに」

「食べて、丈夫になって。そうしたらまた描く」

俺はそんなことしかしてやれない、と八汐は自分に失望して呟く。口数少なく、傍にいる。

「あなたが逢いに行くって、聴こえたのかも。電話があった。結婚、ばれていた。逢いたいって」

「今度の土曜日に行こう」

「……一人で、行って。歓迎してくれる……わたしも、学生時代の友だちに……お見舞いに……MERSで死にかけたんですって。那須の山荘で療養しているそうだから……」

「どこかあっちの方に行ったんだ」

「詳しくは聴かないと」

八汐が触りたくてしょうがないのはわかるけれど、すぞろわしい。わざとベッドに素裸を晒すのも厭わしくてパジャマを、上は胸から被せて、身を横たえると、後ろから布団を肩に引き上げて

「おやすみ」

「おやすみ」

「……寝た?」

「……うん」

早起きするのを薄目で見ると、パジャマは後ろ前のままだ。