俺でさえ困ってしまうのだから、淳さんは大変だ。家族に女性がいない。そりゃ不安にもなるさ。でも抜群に賢い人だから、って思い込んでいた。子供を一人、でも二人……でも三人……でもって、幸せな家族、幸せな子供たちって……なんの根拠もなしに……可哀想に。
寝た? うん。
悲しんじゃいけない。
「僕がこの世で大事なのはあなただけだってわかってるね?」
「うん」
俺は泣き虫なんだぞ。声を殺して、腕に響かないように、だめだ、腕をそっと引っ込めて肌掛けを直してやって、拳を噛んで、泣く。
うとうとして気が付いたら淳さんは眠っていた。吸って吐いたまま止まってしまったような呼吸だ。
次の吸って吐いてを確かめてから抜け出す。
「ひどくだるかったの。鬼の霍乱」
粥に鯛の刺身と山葵を載せて出汁と醤油を少し、胡麻豆腐には林の山椒を添えてやった。
おいしいと言って食べてくれて
「どこの医者に連れて行こうかと」
と半分安堵した俺に、そう言い訳した。眸に生気が戻っていた。
「連休は二人だけでいよう」
「うん」
「死ぬまで二人だけでいよう」
「うん」