恭子は彼の面前で二歳を少し過ぎた息子の面倒を懇切丁寧にみようとする。子供の顔や手などを時々彼の前でやさしく撫であげ、子供が寝つくまで念いりにスキンシップを繰り返すのが常だった。子供を伴ってやって来て、ホテルで泊まっていくと決めた場合など、強引に子供用のベッドを追加で入れさせることもあった。

子供を寝つかせようとする時など、恭子の場合は子供に保育園での体験や見たテレビ番組の感想をカタコト言葉で語らせ、徐々に子供のほうが話し疲れて寝入るのを待つということになる。その際、彼女は子供の額や頰や手の甲など、文字通り撫でまわすといった感じで母子の触れ合いをする。

息子がなかなか寝つかない時など逆効果ではあるまいかと思えるほど息子の肌に自らの肌をこすり合わせ愛しくてたまらないといわんばかりのスキンシップを繰り返して寝つかせるようにする。人間の肌に触れるのが快楽といった様子で、この態度は自身の幼子を相手にしても来栖という男を相手にしても一貫しており、変わりがない。

彼の目に映る恭子は子煩悩そのもので、それでいて全く世帯やつれしたとか、家庭にどっぷり漬かった主婦という雰囲気を見せない。子供の例をとっても彼女は彼の目の前で血を分けた息子に対してというよりも、可愛くてたまらない愛玩動物を徹底して可愛がり、世話するという態度である。そうすると彼には彼女が亭主のいる主婦とか、幼い子がいる母親というイメージで見るという意識がなくなり、優雅に愛らしいペットと戯れる愛人と時を過ごしているという気持ちに自然となってしまう。

日常生活から出てくる染みのようなものは彼女のどこにも見当たらない。それほどに子供と接する折の彼女の身ごなしや言葉づかいは見事だった。