いたずらな運命~信頼とエゴの狭間で~
監督が言うには、
「私は、やっぱり、映画というものは、全てのスタッフが生き生き働いて、お互いを信頼して出来上がると考えているので、その関係が全てなのだ。君は、私の言っていることがわかるかい?」
俺にはわかるが、今はお互いをいい関係に持っていく言葉が見当たらなかった。おとなしくなった俺に監督は言った。
「言葉はいかなる嘘もつけるが、作品は嘘をついてはいけない。鑑賞してくださるお客に対してだ。脚本家と監督がいいかげんな関係だといい作品は作れない。素直な君の言葉が聞きたいんだ」
俺は言った。
「お金がいくらもらえるかが頭にあったから、お世辞を言ったことは本当です。話はおもしろく変えてもらっていいと思ったことも本当です。おこがましいことを言える立場にないので」
監督は隠すことなく教えてくれた。
「大きなお金が入るか否かは、全て作品の出来にかかっているんだよ。観客がどれだけ入ってくれるか、それが君の収入にかかっているし、私たちはもとより、この作品に関わる全ての人びとに関わってくるんだよ。だから、脚本を書いた君と、映画化をする私とは、なおさらいい関係でやっていくしかない。いかなる作品になるかは、今からが勝負だ」
俺は誓いを立てた。いい関係を持つために、考えていたことを言うのはやめよう、自分の考えは言わないし、協力だけすることにしよう、と。その方がうまくいきそうだ。
「怒らないから、何でも言いたいことを言っていい」
監督は言った。大いにうまくやらなくてはいけないから、しかも怒られたくないし、静かに言った。
「いい作品を作りたい。それは私も同じです。だけど、正直な話、なぜ自分の脚本が監督の目に留まったのか、今でも信じられない気持ちです。映画化に関しては、自分は素人だし、何から始めていいのかわからないので監督のアドバイスに沿いたい。お互いにとっていい作品にしたいです」
未熟なアイデアなのに監督に気に入られたという自負は、お互いが信頼できないと消滅する。俺は、うまく立ち回ろう、と思った。得た魚は逃さない。