竜の夢
フォールは、自分の家と思しき家にいる自分を見ていました。彼は大きな部屋にいて、半分開いたガラスの引き戸越しに、外を眺めていました。
家からは舗装されていない小道が走っていて、その先には、やや左側に、小さな弁天池がありました。その右側には、竹やぶがあって、さらに右手には、正確には北東の方向ですが、大きな竜が地面を滑って、竹やぶから小さな弁天池に向かって、小道を横切っていました。
それはピンクがかった、茶色っぽい黄色で、気や煙を吐くことも、鼻を鳴らすことも、唸り声を出すこともありませんでした。鱗も足も羽もなく、どちらかというと、竜の顔をした、巨大な3メートルくらいの蛇みたいでした。家の前の小道を、尺取り虫のように滑らかに這っていました。
フォールはびっくりし、怖がるべきなのかどうかもわかりませんでしたが、彼の常識は、危ないから、万一に備えて、早く引き戸を閉めなさいと言っていました! この時、竜は頭をこちらに向け、フォールをじっと、意味ありげに見つめていました。そして、考え直したかのように、方向を変えて、くるっと左を向き、まっすぐフォールをめがけて来ました。
竜が近づくのを、フォールは茫然と見ていました。目を離すことができなかったのです。竜はあまりにも大きく、素晴らしくて、それが自分をめがけて来ると思うと、圧倒されてしまい、ガラスの引き戸を閉め、二重に鍵をかけておくほうが安心だと考えたのでした。
そうです、万一に備えて……フォールがやっと鍵をかけたと思ったら、竜はもうガラス戸の反対側まで来ていて、彼のことを人懐っこく見ていました。その顔は優しく穏やかで、ちょっと考え込んだ様子で、信じられないくらい立体的な3Dでした。竜にしてはずいぶん優しそうだな、と彼は思いました。
竜は優しくフォールを見つめながら、その鼻先をガラス戸にそっと押し付けていました。目つきはとても穏やかでしたが、食い入るような目でした。すると竜はガラス戸をそっと滑り込んできたのです。まるで、ガラスなんかなかったかのように、ガラスが水でできていたかのように、まるで、戸が溶けてなくなってしまったかのように。
そして、竜はものすごく優しく、顔をフォールの頬の辺りに置きました。これは単なる偶然なんかじゃない、竜はぼくのためにはるばる来てくれたんだ、とその瞬間に彼は思いました。フォールにはもはや警戒心はありませんでしたが、まだ、何となく落ち着きませんでした。