丁度その時、そと人達が里の入り口に着き、門番の四人が槍を突き付けていた。
「龍神守(たつもり)の里に何用だ?」
「おっと! これは物騒ですなあ~。我々は山を三つ超えて来た阿修のクニの当主で、名を保繁と申す。隣の馬上に居るのは、倅の保些だ! 御当主殿に目通り願いたい。我々はこの里と友好の挨拶に来たのだ」
男達は腰に挿していた剣と、家臣達が持つ武器を門番に渡した。
「ほれ、後ろの荷は貢物だ。今、わしらは丸腰の状態だ! 荷の中には武器などは無い。怪しいと思うならとくと見分してくれ!」
保繁が言うと、男達は手を広げて見せた。
門番が御館様に知らせようと話し合い、一人が馬に乗って報告に行った。しばらくすると、門番の後を重使主と中根を伴った羅技が、正装で身を包み、白馬に跨ってやって来た。
「我は、龍神守(たつもり)の里の当主が嫡男羅技である! 遠路はるばるこの里によく来られた。父上は館にてお待ち致しております。さ、館へ来られよ」
そう言うと、さらりと軽く馬を翻して一行を館へと誘導した。そと人達は、羅技の女と見まがうような美しい顔立ちに唖然となり、そして馬の扱いの見事さに感心した。保些は羅技の容姿に疑問を抱いた。
「お、女?」
羅技はそと人達の話に聞き耳をたてていた。
「おやじ殿。あの若者、嫡男だと言っておりますが、私の目にはとても男には見えないのです」
声をひそめて言う保些に、
「馬鹿を言うな。あれ程上手く馬の扱いが出来る者は我等阿修の兵でも居ないぞ。まして女に出来るはずが無い。腰に携えているあの剣もかなりの品だぞ。か弱い女子が凄剣を持つ事さえ出来まい。それにこの里の馬はすべて見事な白馬だ!」
一行は辺りを見回し、武人の身なりや里人達の様子に思わず驚いた。
「凄い! とても良い暮らしをしている!」
「阿修の里には無い物がここには沢山在る!」
「お、おやじ殿。家臣達の剣や武具はともかく民に至るまで皆、上物の衣を着ています!」
驚きを隠せない保些に、保繁はにやりと笑った。
「フフフ! 豊かな里とは噂で聞いていたが、これ程とはなあ! それにしても武人の数は意外と少ないぞ」
屋敷の中へ入ると広間の一段高い所には、龍神守(たつもり)の当主である龍(たつ)の和清が座っており、羅技はその左側に腰を下ろした。下の段の両脇には重使主と仲根が控えて座り、部屋の両側には家臣達が並んでいる。保繁と保些は、和清の前にしずしずと歩み寄り、深く頭を下げた。
「この度は突然押しかけて来た我等を、本来なら追い返されても仕方ない事ですが、この様に手厚く招き入れて下さいまして有難うございます。わしは阿修のクニを治めている阿修の保繁でございます。貴殿の里と親しく付き合いたいと望みます。本日ここに我が国で採れた米や酒、そして馬を手土産にやって来ました。我々の友好の願いをきいて下さりますか? 後ろに控えるのは倅の保些です」
保繁が尚もひれ伏して和清に述べた。