自律的な学校経営
学校の自律性を重視
学校教育の責任が州にあるオーストラリアでは、学校経営のあり方も州ごとに異なる。だが、総じて言えば、学校経営は自律的に行われる方向に進んでおり、多くの判断が各学校に委ねられている。特に、ビクトリア州は1990年代の初めから自律的学校経営を実施し、成果を挙げている。
他の州でも、近年は自律性が重視され、学校の裁量幅がどんどん広がっている。自律的学校経営とは、カリキュラムや人事、予算などの権限を学校が持ち、それぞれが主体的に学校を運営していくやり方である。各学校では校長が中心となって学校経営計画を策定し、実施する。
その一方で、学校にはアカウンタビリティ(説明責任)が求められ、結果について保護者や行政に納得のいく説明をしなければならない。結果は評価の対象となり、次年度以降の予算にも影響するので、校長には高い学校経営能力とリーダーシップが求められる。権限を持つ代わりに責任も大きいということだ。
アカウンタビリティの機能を持つ年次報告
自律的な学校経営で重要なのがアカウンタビリティだ。自律的学校経営では、校長が予算編成と教員人事に関わる権限を活用して、特色ある教育課程を実施し、教育成果を向上させることが期待される。だが、学校への権限委譲が校長の独善的経営、教員組合主導の意思決定、教員による専門的権限の濫用を招いてしまい、学校に対する不信感を広げる可能性もあると指摘する研究者もいる。
こうした事態を避けるために、自律的学校経営にはアカウンタビリティが要請されるのだ。アカウンタビリティには、学校経営に関する情報を公表する公表責任と、学校経営の状況を評価し、その結果を公表する結果責任の2つの側面がある。その一翼を担っているのが、各学校の年次報告(annual report)だ。
年次報告はどの学校のホームページにも掲載されており、誰でも閲覧することができる。個別の学校情報がほしいときにはぜひ目を通してみることをお勧めする。内容はかなり詳細で、学校のことを知らない人間でもひと通り把握できる。州によってフォーマットが決まっていることもあるが、そうでない場合でも項目は類似している。
共通形式を採用しているクイーンズランド州では以下の項目がある。
・学校名、住所、連絡先
・学校長のメッセージ
・学校の概要(校種、生徒総数、男女別人数、先住民族生徒数、1クラスの生徒数)
・カリキュラム(履修教科、内容、特別活動、ICT活用状況)
・学校環境(生徒の家庭背景、多様性、保護者や地域の参加状況)
・ 教職員(総数、内訳、先住民族の割合、学歴、雇用形態、研修参加状況、勤務状況、継続勤務の割合)
・ 生徒(出席状況、懲戒生徒数、NAPLANの結果、義務教育後の生徒の残留状況、後期中等教育修了状況、卒業後の進路)
・学校財務状況(収入、支出)
・資源利用状況(電気、水)
・保護者、生徒、教職員の満足度
年次報告以外にもアカウンタビリティの機能を持つものはある。後述するACARAのウェブサイト「マイスクール」もその一つ。予算の活用状況などを公表する学校も少なくない。
開示請求がなくてもここまで詳細に学校の状況を公表している例は、日本では少ないのではないかと思う。