本当の健康寿命は、何歳か?

健康寿命には、さきほど紹介した方法以外に介護保険のデータを使ったものがあります。

要介護2~5の認定を受けている人が「不健康」、そうでない人は「健康」とみなして計算します。恐らく、この方法のほうが一般的な認識による「健康寿命」により近いはずですが、これは「平均自立期間」(日常生活動作が自立している期間の平均)と呼ばれています。

そして、二〇一六年の「日常生活動作が自立している期間の平均」は男性が七九・四七年、女性が八三・八四年となっています。

この方法だと、広告で使われる健康寿命よりも、男性で七年、女性で八年くらい"健康"な期間が長くなります。もっと長くなる調査もあります。

厚生労働科学研究費補助金による「健康寿命における将来予測と生活習慣病対策の費用対効果に関する研究班」(二〇一二年)は、その論文「健康寿命の算定方法の指針」中で、六五歳の人が死亡するまでの間で、自立して(要介護認定2以上を受けずに)生活している期間と、自立していない(要介護認定2以上になった)期間の年次推移を示しました(図)。

(図)

二〇一〇年の男性をみると、当時の平均余命は一八・九年でしたが、自立生活期間は一七・二年でした。

つまり、自立していない期間は一・七年に過ぎません。女性はというと、当時の平均余命が二四・〇年で、自立生活期間が約二〇・五年。自立していない期間は三・五年となっています。

つまり、「自立生活が営める」という、一般的に認識されている意味における「健康寿命」は、この調査によれば二〇一〇年時点で男性八二・二歳、女性が八五・五歳だったのです。ここから一〇年が経過していますから、現在はもう少し長くなっているでしょう。

こうなると、広告で謳われている「健康寿命は七十歳代前半」とは、一〇年も違います。そして、「健康寿命は男性が八二歳、女性が八五歳」と言われる方が、多くの人の実感に近いはずです。

もちろんこれは平均値ですから、九〇歳、一〇〇歳でも健康を保つ人は多くいるわけで、だからこそ「人生一〇〇年時代」と言えるわけです。

"六五歳くらいまで生きたら、健康で暮らせる期間が平均であと二十年くらいはある"ことが分かっていただけたと思います。九〇歳まで元気というのは、ごくごく普通に起こる話なのです。

「老いさき短いんだから、成り行きでいい」というのはとうに昔の話で、元気でいられる長い期間をどう生きるかを考えなければなりません。

ただし、このときに生じてくるのが経済的不安です。長く生きたら、貯蓄が尽きてしまうのではないか、貧乏してまで長生きしたくない。そんな不安です。それでは次に、高齢者の経済的な側面について見ていくことにしましょう。