先述の加齢のパラドクスを説明しようとしている六つの説にあるように、幸福感は、離脱・活動・継続に通じる生活をしているかどうか、最適化・発達・老年的超越といった精神的成熟を遂げているかどうかに大いに関係しているのではないかということです。
精神的成熟の点で言えば、幸福な人は、年とともに物事を前向きに柔軟に捉えたり、小さなことに感謝や感動、満足を覚えたりすることができるようになる。
一方で、幸福感の低い人は、若い頃のように、身体の衰えや生活環境の変化に不安や不満を覚え、嘆くばかりになってしまっているのではないでしょうか。
生涯発達心理学で知られるポール・バルテスは、「獲得・喪失モデル」[図表2]を提唱しています。
若いからといって獲得だけをしているわけではなく、様々な喪失を経験します。
同じように、高齢期だからといって喪失ばかりしているわけではない。
身体の衰え、仕事がなくなる、収入が減る、配偶者の死など様々な喪失は経験するけれど、語彙が増えて洞察力が増すので表現が豊かになる、ものごとを多様な視点から見て評価できるようになる、自然やその変化に感動できる、物事の真贋が判別できるようになる、小さなことに満足できたり感謝できたりする。
特に、このような精神的、能力的側面で獲得できることは大きいはずです。この図を見れば、幸福感の高い人は「獲得」に焦点を当て、幸福感の低い人は「喪失」に目を奪われてしまっているのではないかとも思えます。